《違法サービスはなぜ生まれたか ルポ・内定辞退予測》(上)合否・「オワハラ」への影響は リクナビと行政、食い違う説明

9万5000人以上の就活生が対象となり、うち約2万6000人の同意なく個人情報が外部提供されていたリクナビの内定辞退予測。違法なサービスはなぜ、どのように生み出されたのか。5カ月間の取材から浮かび上がった原因と実態を、全3回の連載で検証します。

「4日後までに他社の選考を全て放棄してほしい。従ってもらえない場合、内定は取り消します」

慶大4年の男子学生(23)は2019年5月下旬、内定先の企業に突然こう告げられた。

内定を言い渡されたのは4月下旬。「人事面談では、『悔いの残らないように就活をやりきって』と温かい言葉をもらった」。ところが5月を境に採用担当者の態度が一変。就職活動を終えるよう迫られた。近年、学生の囲い込みを図る企業の間で横行する「オワハラ(就活終われハラスメント)」だ。

当該企業は、就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアから「内定辞退可能性スコア」を購入していた。「ひょっとして、自分のデータも取引されたのかな」。男子学生には思い当たる節があった。

「選考離脱予測」も

スコアは、リクルートキャリアが独自に算出し、学生の同意なく企業に販売したものだった。問題のサービスは「リクナビDMPフォロー」の名称で18年3月から提供されていた。

DMPは「データ・マネジメント・プラットフォーム」の略で、企業が顧客のウェブサイト閲覧履歴、購買履歴、位置情報などを一元的に管理、分析する仕組みだ。顧客ごとの嗜好や行動特性に合わせた広告配信が可能となり、効率的なマーケティング手法として注目される。リクナビではそのDMPを、就活生に対する「フォロー」に活用していた。

「選考と内定という異なる段階での『フォロー』を想定していた」とリクルートキャリアは説明する。

問題が明らかになった後、同サービスについては「内定辞退率」という言葉が先行して報じられてきた。しかし、実際には「選考離脱可能性」と「内定辞退可能性」という二つの段階で、就活生のスコアが算出されていた。

例えば、選考離脱可能性の高い応募者には、企業が職場見学などを手配する。内定辞退可能性が高い就活生に対しては、社員が入社前のさまざまな相談に乗る。これらは、同社が公表している「フォロー」の具体的な事例だ。

「辞退可能性」急上昇

リクナビの会員だった前出の男子学生は、自身のデータが企業に販売されていなかったか、同サイト上で問い合わせた。

〈この度は、「リクナビDMPフォロー」で発生している事態により、ご心配、ご迷惑をおかけし誠に申し訳ございません〉

相談窓口からこのような文面とともにメールで送られてきたのは、実際に販売されたスコアの一覧だった。

リクルートキャリアから学生に届いた情報開示のメール(画像は一部加工しています)
リクルートキャリアが同一企業に実際に販売していた学生のスコア。(上から)19年5月20日、6月3日、同14日時点のもの(画像は一部加工しています)

19年5月20日時点で算出された「辞退可能性」は「Low(低)」とあるが、6月3日には「Middle(中)」、同14日に「High(高)」へとはね上がっている。

「リクナビは結局、『ネット上の自分』しか見ていない。『本当の自分』を評価してくれたはずの企業が、データに踊らされてオワハラを行っていたとしたらショック」と男子学生は失望を隠さない。

「白か黒ではない」

リクルートキャリアは契約企業に対し、スコアの適切な活用方法、つまり「フォロー」の具体例を事前に示していたという。「行政調査では、スコアが企業による合否判定やオワハラに活用された事実はなかったと結論づけられている」と広報担当者は断言する。

一方で、政府の個人情報保護委員会は取材に対し「合否判定に使われたかどうかは白か黒で言い切れるものではない。スコアが(採用担当者の)心の内にどう影響を与えたかまでは分からない」と指摘。同社とリクナビDMPフォローの利用企業を指導した厚生労働省の担当者も、「あくまで法令が遵守されていたかを調査するものであり、いわゆるオワハラの観点からの指導は行っていない」と説明する。

リクルートキャリアが17年、社外向けに作成した同サービスの提案書には、次のような文言がある。

〈本スコアのみでの合否判断は実施なきようお願い致します〉

スコアを「加味」した上での合否判定までは否定しておらず、結果としてスコアの使い道は、各企業が「フォロー」という表現をどう解釈するかに委ねられることになった。

「根本的に疑念を生んでしまうサービス」(広報)だったリクナビDMPフォロー。19年8月に廃止へと追い込まれ、保護委から個人情報保護法違反の勧告を受けた。就活生への説明不足に加え、利用企業に対する説明不足が、違法なサービス提供の引き金となった。