列島に猛威を振るった台風19号。その被害は近年でも類を見ないほどの規模となった。

鉄道業界も例外ではなく、北陸新幹線の長野新幹線車両センターの水没や武蔵小杉駅構内の冠水など、車両や設備面で甚大な被害を受けた。しかし被害状況を見てみると、鉄道乗車中の被災や乗務員・作業員への被害など「人への被害」がほとんどなかった。

なぜ、鉄道業界における人的被害がなかったのか。その理由に迫るため、国土交通省が発表した政策評価書「鉄道の防災・減災対策」のアドバイザーを務めた上山信一教授(慶大総合政策学部)に鉄道の防災対策の現状を聞いた。

予防段階での対策

「『事前に』というのが一つの大きなキーワード」と上山教授は語る。

国土交通省は、首都直下地震や猛烈な大雨の頻度増加に対応するため、予防段階における対策の拡充を試みている。その代表例が計画運休だ。

以前より余裕を持った発表と世間への認知度が向上したこともあり、今回の計画運休による混乱は少なかった。このような予防段階における対策の変化が台風19号による人的被害減少につながったといえる。

都市全体で考える防災

そもそも計画運休が普及した背景には、昨年10月に国土交通省が行った「鉄道の計画運休に関する検討会議」において各鉄道会社間で計画運休の必要性が共有された事実がある。

では、なぜ近年になり鉄道の防災に関して政府が介入し始めたのだろうか。「大きな理由としてステークホルダー(利害関係者)の増加が挙げられる」と上山教授は言う。

計画運休をするにも、鉄道会社のみでは人の流れや規模を予測することができない。それらを予測するには会社や地元商店街の協力が必須となる。そして、協力を仰ぐためには政府の介入が必要となってくるのだ。

この事実から見えてくるのは、鉄道会社だけでは災害の予防ができない時代になっているということだ。上山教授は「自然災害による鉄道被害を減らすためには、鉄道会社が技術のプロとして考えるだけではなく、様々な人が一緒になって考えなくてはいけない。都市全体で考える必要がある」と話す。

災害対策の今後

台風19号の到来によって鉄道の防災は「鉄道」の問題だけにとどまらないことがより明確となった。

今後の防災を考えるにあたっては、人の移動を、単独の交通機関だけではなくドアツードアの視点で包括的に捉え、構造物の補強・システム整備などのハード面の対策だけでなく、防災意識の浸透・迅速な情報提供などのソフト面の対策を講じることが重要だ。

 

(佐藤広樹)