伝統の一戦では、何があるか分からない。昨年の慶大勝利によって33勝33敗で迎えた第67回早慶戦。結果から言うと、今年こそ完全に早大のペースに乗せられてしまった。昨年度1部復帰を決め、インカレでも日本一に輝いた慶大と2部でも中位に低迷した早大。この10日前には早大とトーナメントでベスト8をかけて戦い、24点差をつけて勝利。慶大優勝、早大ベスト16という結果から、今回の早慶戦の結果は意外だったかもしれない。だが、トーナメントで下位のチームの方が早慶戦では優勝するというジンクスもある。昨年はそのジンクスを覆したこと、今年はさらにトーナメント優勝という自信も加わり、ジンクスを物ともしない快進撃を誰もが期待していただろう。

「入りの悪さ」という課題を克服するも、早大のペースを崩せず

試合終了後、喜びをかみしめる早大と呆然と立ち尽くす♯7岩下
試合終了後、喜びをかみしめる早大と呆然と立ち尽くす♯7岩下

予てから課題であった試合の入りは良く、1Qでは23-12で11点差をつけてリードした。
だが、その勢いは続かなかった。2Qで一気に早大が流れを掴み、♯20久保田と♯21山田の相次ぐシュートと、♯15酒井(3年・福大大濠)のファウルトラブルもあり、25-21と4点差までに迫られた。早大に流れが傾いた2Q残り4分30秒で27-25とされた場面、残り3分、29-29と追いつかれたところで慶大がタイムアウトを取る。しかし、早大の勢いを止めることはできなかった。引き続き♯20久保田のシュートが慶大を苦しめ、遂に29-31と早大に逆転を許してしまった。♯7岩下(3年・芝)がフリースローを2本決め、終了直前に♯16二ノ宮(3年・京北)が3Pを決めて34-31、何とか慶大が3点リードで前半は終了した。


2Qの悪い流れを断ち切りたい後半戦だが、3Qでは♯15酒井が4つ目のファウルでコートを後にしてしまう。そこから、慶大が10点差をつけ、またもペースに乗れるかという期待があったが、早大も粘り、3Qも3点リードで終了した(48-45)。
4Q、後半は追い上げられながらもリードは許さずにきた慶大だったが、残り14秒で早大♯7井出に逆転の3Pシュートを許し、63-65とビハインドとなってしまった。
慶大がタイムアウトを取り、時間ぎりぎりのところでフリーになった♯15酒井が果敢にシュートを打つものの決め切れず、そのまま慶大は敗れた。

シックスマンからスタータへ、スタータとしてのプレッシャー

ファウルトラブルに苦しむも果敢に攻める♯15酒井
ファウルトラブルに苦しむも果敢に攻める♯15酒井

4Q残り10秒、タイムアウト明けのラストプレイに攻撃を仕掛けたのは、この試合、ファウルトラブルでコート離れる時間が長かった♯15酒井だった。
試合終了のラストプレイについて、彼は次のように語った。
「指示はインサイドで同点に追いつこうということだったんですけど、相手のディフェンスが中を警戒して外があいたんで迷わず打って行ったんですけど、ああいう風に落ちて決まってしまったんで責任を重く感じています。4年生に勝たしてやりたかったし、勝ち越しもかかっていたので…」(♯15酒井)


昨年は、シックスマンとして試合に出ることが多かった♯15酒井だが、今年はスタータのメンバーに加わり、今回の早慶戦にもスタータとして挑んだ。
「スタータとして、塾の代表の5人のうちの1人だというプレッシャーはあります。去年はシックスマンとして出たんですけど、流れが良かったらそれを継続して、悪かったら引き寄せるような、僕だったらリバウンドとか地味なプレイで流れを引き寄せようと考えていたんですけど、今年は全部悪い方に出てしまった」と♯15酒井は振り返った。
審判の判定にも適応できず、3Qで4つ目のファウルを取ってしまったことに「ファウル4つでチームに迷惑をかけてしまって…」と責任を感じているようだった。
しかし、♯15酒井は、これまでにチームのピンチを救ってきたプレイヤーといっても過言ではない。今後ピンチを救う彼の活躍に期待したい。

岩下と久保田のマッチアップの行方は…

♯7岩下と♯20久保田のマッチアップ
♯7岩下と♯20久保田のマッチアップ

今回、キーパーソンとなったのは、やはり早大の♯20久保田だった。彼は、この試合、早大の総得点の約半分に及ぶ30点を決めた。
「早稲田のベンチがあれだけ久保田に絞ってくるとは思っていなかったので、そこでちょっと手当てが遅れちゃったんですよね」(佐々木HC)
トーナメントの早大戦を振り返ってみても、24点差をつけて勝利したものの、3Qで♯20久保田が果敢に岩下に1on1を仕掛けて流れを掴もうとする場面もあった。
今回は、♯7岩下と♯20久保田のマッチアップで、♯20久保田を優位に立たせてしまったことは否定できない試合展開となった。


♯20久保田は1年生だった昨年から、スタメンとしてコートの上に立っている。昨年の早慶戦でもマッチアップの相手、♯7岩下をかわして存在感のあるプレイを見せる一面もあった。今回は、2回目の早慶戦となり、1年目に比べてプレッシャーを感じるところもあるそうだ。
「1年の時よりも2年の時の方が早慶戦の重みを少しですけど感じましたね。自分自身も去年よりも緊張していて、最初力んでしまったのがとても反省しています」(早大・♯20久保田)
最初、力が入りすぎたようだが、後半ではそのプレッシャーが良い方向へと繋がり慶大に流れを掴ませなかった。

”トーナメントで優勝したことも事実、早慶戦で早稲田に負けたことも事実”

結果、内容とも満足のいくものではなかったことは確かである。この大会の6日前までトーナメントが行われていたため、早慶戦に向けた調整が十分にできなかったことも敗因として挙げられる。
「トーナメントが終わってからの1週間の使い方が非常に難しいスケジュールだったんだよね……スタータの連中の疲労を取り除くことができなかった、この1週間で。心身ともにね。そこはちょっと悔やまれます」(佐々木HC)
「トーナメントが終わって1週間の練習を振り返ってみると、正直良い練習は出来てなかったですよね。今日も試合前の時に、みんな疲れきったような、フワフワしたようなところがあって、集中できてなかったところもありました。僕自身もそうですし」(♯5小林 4年・福大大濠)
そう試合前を振り返る♯5小林だが、一方で、前向きな姿勢もうかがえた。
「トーナメントで優勝したのは事実ですし、早慶戦では早稲田に負けたのも事実です……でも、ここでくよくよしていても意味ないんで」と言うように、負けという事実はあるが、優勝したという事実もあるチームだ。優勝できる力があるチームなのだから、真の力を発揮した時、結果、内容ともに良い試合ができるはずだ。
ここで、まず負けという事実を受け入れることで、♯4田上(4年・筑紫が丘)が「チームとして最終的に一試合で120点取れるチームを目指しています」と話していた目標へと繋がるのではないだろうか。


文 阪本梨紗子
写真 阪本梨紗子 安藤貴文
取材 阪本梨紗子 安藤貴文、湯浅寛、井熊里木、三木麻未