本年度、3月31日で定年退職を迎える文学部の関根謙教授にインタビューを行った。関根教授の専門は中国現代文学、特に1930年代からの都市文学である。慶大では中国語ならびに現代中国文学関係の科目を担当していた。

関根教授は慶大文学部中国文学専攻卒業後、同大学院に進み、修士課程を修了した。文化大革命が始まる頃と1989年の天安門事件の時期、それぞれ約2年間中国で暮らした経験がある。1995年には慶大文学部助教授に就任した。2010年に文学部長に選出されると以後2度の学部長選挙で重任された。そして2017年1月1日付で『三田文学』の編集長に就任した。

―どのような研究をされているのですか?

日中戦争の時代の文学者や知識人の生き方をテーマにしています。非常に強い政治性の中で個我を保ち、個性的な文学を生んだ文学者を取り上げています。中国文学のメインストリームは、政治・革命・社会とのつながりや、民族主義的な色彩を持ちますが、政治の抑圧に抵抗した文学者など周縁の作家に焦点を当てています。また現代の中国との関わりということでは、コンテンポラリー文学の翻訳を行っています。

―翻訳の際、気を付けていることは何ですか?

翻訳は創造だと思っています。原文の何に惹かれて翻訳しようとするのかがポイントです。まずは原文を読んだ時、これは凄いと思わなければ翻訳はできません。翻訳者がその作品の真理に触れた時、翻訳の可能性が生まれます。作品の翻訳とは、基本的な理念の共鳴なのです。共鳴があった時に初めて、それを彫琢しようとするこちら側(日本語側)の感性による真理へのアプローチが出来るのです。ベンヤミンの言う「割れた皿がピタッと重なる」ように原文と翻訳が結び合った作品は、以前にも増して文学としての境地が高まります。

―『三田文学』編集長としての意気込みをお願いします。

『三田文学』は、世の中の動きに迎合するのではなく、作者自らの思うことを伝えるのが第一の使命です。世に迎合しないとは、作品世界の中でどう表れているかがポイント。作者が社会に真摯に向き合って発信する、それを自由にするメディアとしての場を提供していきたいと思います。それと同時に言葉の深みを徹底して追求していくことで、長い伝統の中で先達が伝えてきた成果を継承し、「三田」の文学として日本に、世界に伝えていきたいです。

―中国とは歴史認識問題などで度々衝突しているイメージがありますがどのようにお考えですか。

中国人か日本人かは人の存在の条件にすぎません。侵略した日本人、被害者の中国人という考え方は短絡的だと思います。偶然に付与されたナショナリティではなく、戦争という近代の大きなシステムによって利益を得た者と虐げられた者がいるということが問題なのです。国境も民族も超越し、人としての連帯を築いていくことが大切だと思います。

―最後に塾生に一言お願いします。

急いで社会に出なくてもよいと思います。一生のうちに自由に学問を出来る時間は限られています。大学で学問をすることほど貴重なことはありません。時間を自分のものにしながら、勉学に励んでほしいです。
(好村周太郎)