企画

【大学生と日本の将来】成毛眞氏・谷口和弘教授インタビュー

冬に差し掛かり、3年生は来春から始まる就職活動に向けて準備を進めている頃だろう。あるいは、就職という道を選択しない人もいるかもしれない。
ひとつ言えることは、何かの目標に向かって努力しているときほど、社会への理解が近視眼的になりがちということだ。

いま歩いている道は、そしてこれから歩こうとしている道は、地図の上のどこなのか。
自己を客観視するのは容易なことではないが、一度大局を眺めてみたり、全く違う世界を覗いてみたりすることで、自分の人生の指針や目的をより鮮明に理解できるのではないだろうか。

4面では、書評サイトHONZ代表などを務める成毛眞氏、慶大商学部の谷口和弘教授に、これからの日本と世界の動向、若者に必要とされる資質についてお話し頂いた。
5面では、4面で得た大局観を引き継ぎつつ、農業、観光業、NPOの分野から日本の趨勢を見る。

多様性、グローバル化、テクノロジーといったキーワードは、これからの社会を生きるうえで避けて通れないテーマとなる。
あなたはそれらについて何を思い、またどのように関わっていくのか。考える視座を与えられれば幸いだ。

***

次世代の勝利法則を語る
書評サイトHONZ 代表 成毛眞 氏

書評サイトHONZ代表、株式会社インスパイア取締役ファウンダー、スルガ銀行社外取締役、早稲田大学ビジネススクール客員教授。元マイクロソフト株式会社代表取締役社長

書評サイトHONZ代表、株式会社インスパイア取締役ファウンダー、スルガ銀行社外取締役、早稲田大学ビジネススクール客員教授。元マイクロソフト株式会社代表取締役社長


―将来の職業を考える上で、産業構造を鑑みる必要はあるか

未来を予測することは誰にもできない。重要なことは、情勢がどう転んでも対応できる能力と環境を準備しておくことだ。21世紀の産業構造は10年単位で変化するはずだ。だとすれば、いま見えている最善解を選ぶ以外に打つ手はない。

学生の職業選択には様々な意見があるが、就職ランキングで上位に入るような立派な大企業にいくのが、結局のところ最善の選択だ。その理由は、ライフタイムを通じて職業選択の自由が増えるからだ。端的に言えば「最初の入社した会社名こそが最終学歴」ということになる。




金融用語で、「リアルオプション」というものがある。企業の将来株価を想定するときの手法で、簡単に言うと企業がどれだけの選択肢をもっているかで価値を算出する。新規事業を始める能力、企業買収をする資金力、事業撤退する判断力などを総合的に評価するのだ。同様に個人も多様な職業につく能力と実績を準備をしておくことが重要だ。

―大学生はどのように仕事を選べばいいのか

上を目指すのであれば、仕事選びで大事なのは希少性である。同業者の少ないものを選ぶべきだ。これは普遍的な勝利法則である。たとえば、商社で穀物のトレーディングをしていた経験があるとなると、同業者から川下産業まで引く手数多だろう。大企業だろうとベンチャーだろうと、どこへだっていける。日本で穀物のトレーディングをやっている人間は数十人ほどしかいないから、単純に価値が高いのだ。

逆に、ベンチャーから商社へいくのはほとんど不可能に近い。川下から川上へはいけない。タクシーの運転手のように、人数が多く、参入障壁が低いものはやはり相対的価値低いし、収入も少なくなる。

とにかく、同業が少なく、かつできるだけその職種のスキルを身につけるのに時間がかかるものを選ぶと他人の追随を許さず一人勝ちできる。極端な話、重量鳶や宮大工などは人数が少なく専門性が高いため安定している。弁護士や歯医者は最近だと飽和してきて、昔ほどいい収入を確保できなくなってきた。

―大学での学習内容に問題はあるか

まず1点目として、大学では致命的なことに、実務的なことを学ぶことができない。大学は学問をするところであって、職業学校ではない、という信条が強く残っているからだろう。しかし現実として、学部生のうちほとんどの人は一般企業に就職する。会社に入ってから初めてそうした実務面を学び始めるのだから、本格的に仕事を取り組むまでに大きく出遅れてしまうことになる。たとえば簿記はせいぜい商学部でやるくらいだし、法学部を出ていても、憲法学はやったが契約書は一度も見たことがない、といったことが起こる。この状況はいかがなものか。

2点目として、日本の大学では、広範な科学の知識をあまり学べない。これも、テクノロジーの時代においては致命的だ。一般教養の授業が一応存在するが、それでも足りない。アメリカの大学の何が良いかといえば、学部1、2年生のときに本物の教養を学べるところだ。文系でも、天文学や物理学の基礎的な内容を学ぶ。別に数式を多用する必要はない。ダークマターとは何なのか、iPS細胞のメカニズムはどうなっているか、ニュートリノの何が話題になっているのか。今の時代に最も重要とされる知識が、日本人には欠如しているように思える。これは高学歴の人々でも一緒だ。

これらは大学側の改善を待っていても間に合わないため、自ら獲得していくしかない。

-少子高齢化は日本の産業力に影響をもたらすか

社会保障の面で打撃を受けることは確かだが、人口減という切り口で見ると、産業力そのものに関して影響はないだろう。生産性とは「売上÷人数」で決まる。現在は機械やインターネットのおかげで人がやるべき仕事は減っているから、人数が減ったからといって生産性が落ちるわけではない。

人間の幸福を考えたとき、GDPランキングに意味があるとは思えない。GDPランキングで言えば北欧諸国は大した順位ではないものの、国民の幸福度は高い。高い生産性の賜物だ。

ただし、例えばフィンランドに、日本でいうトヨタや東レ、セブンイレブン、ユニクロがあるかと言えば、肩を並べる企業は存在しない。そう考えると、人口が減ったとしても、日本が競争力を即座に損なうわけではなさそうだ。

日本がGDPランキングで中国に追い抜かれたときはメディアでも随分議論が起こったが、インフラストラクチャーや、教育、民間企業がもっている高度な生産装置、特許、優秀な技術者の数や暗黙知など、累積された国富に視点を移せば、日本は依然としてアドバンテージを保っている。中国がこれを上回るには数十年かかるはずだ。

―これからホットになる分野は何か

「サイエンスフィクションの現実化」だろう。アメリカで一世を風靡しているイーロン・マスクのスペースXやアップル社だって、今から30年くらい前に考えられた空想を実現しているに過ぎない。10年前は数十万円した機械が現在は100円そこらで手に入る、といったように、技術が洗練され集積してきたことで、今まで不可能だったことが次々と実現できるようになった。そのたびに我々一般人の生活も一変するようになっている。

だからこそ幅広いサイエンスの知識が不可欠だし、その意味や仕組みをわかっている人間がビジネスでも成功をおさめるだろう。

―大学生におすすめの本は

マリアナ・マッツカート『企業家としての国家』(薬事日報社、2015年)。

「民間企業こそがリスクをとって投資を行い、イノベーションを起こし、時代を変える」という概念を問い直す内容。長期的な観点から、国家のイノベーションに対する役割を論じている。

iPhoneのベースとなる、インターネット、GPSやタッチスクリーンといった技術も、元をたどればアメリカが研究開発していたものであり、アップル社はそれを箱にしたに過ぎない。

今後は官民ともに「社会を発展させ、秩序形成するのはテクノロジーである」というテクノロジーオリエンテッドな考え方が主流になるだろう。サイエンス、そして国家や企業の役割を知る上で示唆に富む著作だ。
(和田啓佑)

書籍 プレゼント‼

記事の中で成毛氏が「今、大学生に読んでほしい本」として推薦していた『企業家としての国家』を抽選で10名の方にプレゼントいたします。

締め切りは2015年11月30日まで

ご応募はこちらから



社会情勢を見通す
慶大商学部 谷口和弘 教授


専門領域は比較制度分析、戦略経営論、会社と持続可能性。現代の会社とそれに関連する制度進化・イノベーションを比較的・歴史的に考察する。 (慶大HP教員紹介より)

専門領域は比較制度分析、戦略経営論、会社と持続可能性。現代の会社とそれに関連する制度進化・イノベーションを比較的・歴史的に考察する。
(慶大HP教員紹介より)

―グローバル化、ITの進展、価値観の多様化は日本に何をもたらすか

現在急速に進行するグローバル化により制度間の軋轢が生まれている。日産のゴーン改革に代表されるように、欧米型経営が日本に移植されつつあるが、日本に独特な「空気を読む」企業体質がまだ根強く残っている。例えば2011年にオリンパスで粉飾決算の内部告発があった。その中心となったのは当時のイギリス人社長だったが、不思議なことに騒動後に彼自身が退社を余儀なくされた。これは、世界的な常識が日本の会社には通用しないことを示していたのだろうか。

また、制度間の軋轢はアメリカでも生じている。フォルクスワーゲンの排気ガス装置不正問題も、排ガス規制が特に厳しいアメリカでシェアを拡大したかったこのドイツ企業の意図が裏にある。グローバル時代に、他国に進出した企業は進出先の法や規制、慣習などさまざまな制度の壁に直面しているのである。

次に、IT分野に関していうと、AI(人工知能)の発展が著しい。これまで人間はコンピュータに比べて意味のある対象を見抜くパターン認識、そして幅広い情報のやりとりを適宜に行うコミュニケーションに優れているとされてきた。しかしIBMのスーパーコンピュータのワトソンがアメリカのクイズ番組で全米クイズ王を破るなど、人間とAIの能力差が縮まりつつある。

オックスフォード大学の研究チームの調査では、アメリカにある700ほどの業務のうちバーテンダーを含む47%がコンピュータによって代替される可能性があるという。私たちは人間とAIの分業や境界について考える必要がある。

そして価値観の多様化だが、これもグローバル化と密接な関係がある。 例えば、伝説的なバンドであるビートルズはリバプールから生まれた。この都市はアメリカからの船が出入りする港町で、船乗りたちによってアメリカで購入されたいろいろなレコードが街にあふれていた。リバプールならではの音楽の多様性こそ、ビートルズを生んだ土壌かもしれない。

また、日本の高度経済成長を支えたのは戦前軍需産業に携わっていた技術者たちだった。彼らは培ってきた知識と経験を再配置し、戦後のものづくりの基礎をつくった。フレキシビリティも重要なのである。

また、多くの芸術家を庇護してルネサンス期を支えたメディチ家をみても、社会の発展のために多様性が不可欠だということがわかる。

―大企業による大量生産体制は安定的に継続していけるのか

大量生産体制が安定的に継続するかという質問だが、その予測は難しい。ただし、リチャード・ラングロワの「消えゆく手」論を参考にできる。市場が発達するには時間がかかる。その過程で企業が大規模化し、いろいろな活動を自社に取り込んだ。しかし、グローバル化やITの進展により市場が拡大する一方、市場には単一の企業を上回る厚みのある技術、知識の蓄積がもたらされた。

「スマイルカーブ」という言葉がある。ある製品のバリューチェーンを川上の企画から川下のマーケティングまで見てみよう。このとき、川上と川下は収益率が高いが、その中間にあたる製造は収益率が相対的に低い。このことを、微笑んだときの口の形になぞらえたものだ。先進国の有力企業は収益率の高い川上と川下の活動を自社に取り込み、製造は新興国の会社 (EMSという業態) に委託する。これによってアウトソーシングやモジュール化が急速に進むことになる。

また、ドイツ発の概念に「インダストリー4・0」というものがある。蒸気機関による機械化、大量生産、生産の自動化を経てCPS(サイバーフィジカルシステム)の段階に到達したことを表す言葉だ。

CPSとはサイバー空間と実世界の融合を指す。例えばGoogleは近い将来、ビッグデータ分析により個々の消費者のニーズを把握し、自動運転ソフトを開発し、世界各国のメーカーに自動車製造をアウトソーシングするようになるかもしれない。

ビッグデータの集積によって生産の効率化が起こると、特定の業界に属した専業メーカーより、むしろニーズを細かくとらえ機敏に対応できる業界を越えた企業家や革新的組織にとって有利になろう。その意味でも、ものづくりの概念を根本から見直す必要がある。

―今後若者に必要になる資質とは何か

これからの若者に必要な資質は2つある。「越境力」と「創造性」だ。

特に「越境力」に関して、数学者ポアンカレは「意味のある組み合わせとは離れたものを組み合わせることによってできる」と述べた。

この点で韓国のサムスンは90年代に地域専門家制度というものを作った。社員を100人規模世界各地に派遣し、その地域で現地の人間として生活する経験をさせるのだ。本社への報告義務以外、現地での活動は本人に任せ、真の意味で国境を超えた交流、経験をすること、つまり「越境」を志向した。

また、現在アメリカ実業界で脚光を浴びる起業家イーロン・マスクは民間宇宙開発事業「スペースX」を立ち上げるなど、活躍が著しい。彼も南アフリカから北米にわたる越境の経験だけでなく、物理学と経営学を修めた越境の経験を生かしてきた。

―これからホットになる分野は何か

今後ホットになるものは挙げれば沢山ある。

ロボット、3Dプリンター、ドローンもそうだろう。特に日本では高齢者が増えることを考えると、介助用ロボットには需要がある。また、3Dプリンターによって製造業は在庫を抱える必要がなくなるかもしれない。ドローンのような遠隔操作が可能な技術は、原発事故後の放射線量が多い地域など、人間の立ち入りが難しい場所での活用が期待できる。

観光産業で見てみるとやはり京都は面白い。113万人の来訪者を迎える観光資源の豊かな都市で、民泊やB&B(ベッドアンドブレックファスト)の拡大など、まだまだビジネスチャンスは掘り起こせる私だろう。

スポーツジムも60歳以上の利用者だけで半数を超える。元気な高齢者の活躍の機会も考える必要がある。

また少子化を考えると、精子・卵子提供、代理母出産などの医療ツーリズムも越境的に活発化していくだろうし、家族や国の持続可能性のためにもその必要がある。

―日本のビジネスに欠けているものとは何か

かつて小室直樹氏が『危機の構造』に示した見解が今の日本にも通ずると考える。彼がいうにリーダーの過剰な自負は「盲目的予定調和」を生み、組織の現状維持や硬直化を引き起こす。また、日本のメーカーはハード偏重、安定志向の傾向があるとされてきた。過去の成功にしがみつくことなく新しい課題に挑戦できるかが、今後の生き残りを左右するリトマス試験紙になるだろう。
(田島健志)

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