数学の論理は実生活の論理とは勝手が違うと言われることがある。その根拠は数学の論理は真か偽かの二値しかとらないことに対し、世の中の論理は「絶対」に真または偽であると断定される、はっきり白黒のつくものがほとんど存在しないというものである▼近頃の経済的な不況などにより、先が見えない不安に苛まれる若者が増えている。数学の世界と違って絶対解の存在しない世の中に翻弄され、絶望してしまう人さえ少なくはない▼しかし逆に考えてみれば、正解がないということは不正解もまた存在しないはずだ▼とかく人は悲観的になりがちである。「あれもない、これもない」と愚痴をこぼすのはよく聞くのに、「あれもある、これもある」と前向きに捉えられる人は少ない▼「未来が定まっていない以上、すべての絶望は勘違いである」。高野和明氏の『幽霊人命救助隊』という小説の一節である。確かに、希望というものは漠然としていて見えにくいが、同時に絶望だけがはっきり見えてくることもまたないはずだ。もしそう思い込んでしまったら、それはきっと勘違いなのだ。肩の力を抜き、前を向いて索漠とした世の中に色をつけていこうではないか。 (佐野広大)