多くの大学では一般教養科目の履修が求められ、慶大でも多様な教養科目が設置されている。中でも日吉キャンパスでの文系学生を対象とした、自然科学科目の充実は目を引く。他大でも自然科学科目の履修を要する場合は多いが、慶大における履修すべき単位数の多さや物理学・化学・生物学での実験実習は特徴的だ。
慶大における自然科学教育の歴史は古い。「一科一学も実事を押へ、其事に就き其物に従ひ、近く物理の道理を求て今日の用を達すべきなり」。慶大創立者である福澤諭吉の言葉だ。福澤は自然科学の基礎知識すら持ちえない明治初期の一般人を憂慮し、文理を問わない自然科学教育の必要性を説いた。
福澤は現象を自ら体感していくこと、すなわち実験の大切さも主張したといわれている。この精神を引き継ぎ、日吉キャンパスでは、文系学生向けの実験を含む自然科学科目が60年以上開講されてきた。
文系学生が自然科学科目を学ぶことにはどのような意味があるのだろうか。自然科学研究教育センター所長である文学部の大場茂教授は、「インターネット上などにおける膨大な科学の関連情報から、正しい選択や判断を行うためにも、自然科学の初歩的な知識を持つべきだ」と話す。文系学生にとって、自然科学的な物の考え方を身につけることが重要だという。
授業では、科学を身近に感じられる話題や実験が多く提供されている。最近では、原発事故を受け、放射能・放射線の話題が複数の授業で取り上げられている。加えて放射線測定実験を行うといったような、得た知識を実験で確認する取り組みも盛んだ。ほかにも遺伝子検査による各自のアルコール耐性調査や、キャンパス内の生き物観察などといったような、学生が興味を持ちやすいさまざまな実験テーマが設定されている。
身の回りには遺伝子組換食品や臓器移植など、科学技術の産物や今後の課題が数多く存在し、文系の人でもある程度の知識が求められている。リベラル・アーツや文理融合が叫ばれている今、文系だからといって敬遠せず、自然科学科目を積極的に履修してみてはいかがだろうか。  (榊原里帆)