人は誰しも、悩みを抱えて生きている。生きることとは悩むこと、とはよく言ったもので、悩みとの付き合い方は人生を通じてのテーマといえる。その付き合い方は人によってさまざまだろうが、解決を目指すとき、他人に相談してみるという人は多いだろう。
この本は、「国家の品格」などの著書で知られる藤原正彦氏が読売新聞紙上で担当した人生相談の質問と回答72編を収録したものだ。目次は、10代―60代以上まで年齢別に分けられており、世代ごとの悩みの特色がはっきりと読み取れるようになっている。
我々の世代に当たる10代―20代の相談を読んでいくと、「思い込み」による悩みが多いという傾向が浮き上がってくる。「まえがき」において著者が「(人生相談のコーナーが)始まってみると、意外なことに私の回答は評判が良かった。ほとんどの相談者が、常識とか固定観念とか風潮に縛られて悩んでいて、それを指摘するのに私の無常識が役立ったのかも知れない」と記しているが、この常識に縛られたタイプの悩みが、とりわけ若い世代では顕著にみられるのだ。そういった悩みに、著者は独自の視点から解決のヒントを与える。
例えば、おとなしくて勉強もスポーツもできず、友達が少ない自分を変えたいという悩みには、「勉強のできる子、スポーツの得意な子、明るく活発な子が良い子などと誰が決めたのでしょうか。そういう子は、私にとっては退屈な子です」と答える。自身の二重人格への悩みには「この世に表と裏が全く同じ人間などまずいません。いたとしたらさぞ平板で退屈な人でしょう」。常識にとらわれて悩んでいると分からないが、言われてみればなるほどそういう見方もあるんだ、と感じさせられる。
今時は若者を中心に「ぼっち」などという言葉が流行り、大学などでは友人と行動を共にせず一人で居ることが恥ずかしいこと、という認識が蔓延しつつあり、嘘か真か一人で食事をとるのを見られないようトイレの個室にこもって食べる人すらいるなどともささやかれているが、これもまた風潮に縛られすぎた例と言えるだろう。一人で食事をとったからといって友人が少ないことの証明になるのか、そもそも友人が少ないことは本当に恥ずべきことなのか。この例のように少し身の回りを見渡してみても、こうした類の悩みは数多く存在している。
読みながら、これまで自分が悩んできたことを反省してみる。もしかしたら、回答のように少し視点を変えてみればそれは悩みにすらならないことだったかもしれない。違う角度から物事を見つめてみる、それが悩みと付き合ういい方法の一つだ。そういう意味で人に相談することは大切なのだろう。
見開き完結で軽めの読み物、といった感じだが、誰もが抱きそうな悩みが多くて考えさせられ、また藤原氏独特のユーモアで楽しく読める。一読してみてはいかがだろうか。
(佐野広大)