「大学院の状況は変わった」と慶應義塾大学大学院法学研究科委員長大石裕教授は話す。「成績優秀者や文章の読み書きが好きな研究者志望もいる。しかし、学部では自分の勉強に満足できなかったという理由で、修士に進んでからの就職をめざす学生が増えてきた」。専修コースの設置や基礎力を重視した授業の進め方の採用など、こうしたニーズに応えられる体制も整っているという。
 「研究者志望者は、論理的思考力を持ち根気よく勉強を続けられる人。就職を意識する人は自分の専門にエネルギーを集中させられる人です」と院に進むべき理想の人材を語る大石教授。学部時代にしておくべきこととして「本を読むこと」を挙げた。加えて、「研究者は大学に就職し組織の一員、教育者になるのだから、人間的な面白さや学問のすそ野を広げる好奇心も必要。就職希望者は、専門の軸を持った上でより高い好奇心を持っておくこと。読む本にも幅を持たせると良い」とアドバイスした。
 慶大大学院の一般入試は秋と春の2回を行う研究科が多いが、科によっては3回行うところも。今年9月慶應義塾大学院に合格した坂本正樹さん(政4)。大学4年間で600冊の本を読んだそうだ。2年次の「演習」の授業で国際政治に興味を持ち、院進学を意識。院修了後については、「基本的にはノープラン。大学に残りたいが、修士課程2年、博士課程3年の5年間だけでは足りないかも」と向学心を持つ。竹野寛さん(経4)は、一般的な学部生活を送ってきたがゼミを通して経済学の面白さを知り、まだ物足りないと感じて大学院を受験。卒業後は院での学びを生かした就職を考えている。
 「社会を知る」のが学問の目的と話す大石教授。その上で、「専門性を高めることで社会を見抜く力を養う場所」と大学院のあるべき姿を語る。「就職は院を出たから恵まれるということはないが、かつてより企業も学問を認め門戸を開いている。また学生が気づいていないだけでゼミを中心として必要な力はついています。大学よりも専門性を高める大学院では、その力がより高まるはず」と就職活動の実情にも触れた。
 「大学や院は社会をより良くするための研究の拠点。もっと大学と社会が互いに近づき、社会も大学や院のことを理解してくれるとよい」と力強いメッセージを送った。 (池田尚美)