つれづれ評論 「偉大なる、しゅららぼん」 万城目学 2011年 集英社

 苦い、と感じる味覚は、涼しい、という体感を引き起こすらしい。その例にゴーヤチャンプルなどのほかにも、万城目学の最新作『偉大なる、しゅららぼん』を加えたい。
 主人公の日出涼介は、彼の日出一族に現れる「他人の精神を操る能力」を修練するために、琵琶湖北東の石走という城下町にある日出本家に住み、近くの高校に通うことになった。
 城のような日出家に住む嫡子の淡十郎は、殿様を体現したような男だった。純粋で芸術家肌だが自分の感情のままに行動しなければ気がすまない人間で、共に行動する涼介はいつも振り回されてしまう。厄介なことに、ほかの日出家の人間も総じて非常識だ。
 涼介の苦労はそれだけではない。登校初日から同級生の棗広海に殴られたのである。広海の一族である棗家は「肉体を操る能力」を持ち、日出家とは因縁の仲なのだという。広海とは淡十郎も加わって衝突しながら、奇縁が出来ていく。
 涼介、淡十郎、広海の3人を中心に、能力の秘密や湖の謎、因縁の背景などを絡め物語は進む。ただの超能力バトルものと侮るなかれ。瓢げた語り口と巧妙な伏線、歴史的因縁や鍵となる変わった「音」など、万城目作品の魅力は健在である。
 また、高校での生活風景が感じさせる日常の明るさと苦さ。破天荒な設定だからこそささやかな青春のエピソードが際立ち、青臭い苦みと豊かな香りを醸し出す。一面、誰かのちょっとした行動でたやすく壊れてしまう脆さと危うさ。その中に垣間見える裏の動きが生み出すハラハラ感。そして疾走感のあるクライマックスとオチの後に訪れるのは、紛れもない爽やかさである。
 うだるように暑い夏。開け放した窓の下で、物語が生み出すちょっぴりの苦味と爽快な清々しさの恩恵に預かるのも一興ではなかろうか。
       (天野葉子)