日吉駅から来る学生を迎える
日吉駅から来る学生を迎える

竣工から一年半が経過した日吉キャンパス第四校舎独立館は今年7月、第51回BCS賞(建築業協会賞)を受賞した。今月には帝国ホテルで授賞式が催される。
普段意識することは少ないが、独立館には塾生間の交流を生み出し、居心地のよさを向上させる様々な工夫がこなされている。鹿島建設建築設計本部の篠田秀樹氏に、設計に込められた思いを伺った。

「1万人もの塾生を如何にして受け止めるか」独立館の設計コーディネータを任された篠田氏にとっては、これが大きな課題となった。「あれほど広大な敷地を所有しながら、第四校舎付近だけに人が集中している。この状況を何とか緩和したかった」と話す。
特に日吉キャンパスの朝は慌ただしい。駅前に溢れた人の波が、信号の合図でいっきに銀杏並木へと押し寄せる。教室へと向かう道は塾生でごった返し、窮屈な状態だった。
そこで打開策として提案されたのが「新たな動線」の創出だ。銀杏並木に直交し、綱島街道に沿ったアプローチを新しく設けることで教室へと向かう塾生を分散させた。今では桜並木と呼ばれ、すっかり定着している。また、設置に先立ちキャンパスと綱島街道を隔てていた擁壁を取り壊した。これにより、威圧感が一掃され「街に開かれたキャンパス」へと変貌を遂げた。
独立館の教室は、自由で主体的な活動の場となっている。コミュニケーションラウンジをはじめとする共有スペースの確保は、他の大学にはほとんど見られない試みといえる。「外から見える」教室も画期的だ。篠田氏は「前塾長の安西祐一郎氏が提唱された『知的価値創造の過程を可視化する』という理念のもとに考案した」と話す。
設計の細部には、「遊び心」も隠されている。
夕方になると、独立館には西日が差し込み、壁や床に影を落とす。綱島街道に面するルーバーは明るさを調整するために設置されたが、「あえて二重にした」と言う。ルーバーを二重にすると、太陽が沈んでいくのに応じて影の重なり具合が微妙に変化するのだ。そのため投影された影は、時間ごとに違った形を見せる。
「今はインターネットやダブルスクールの普及で、キャンパスに行かずとも勉強することのできる時代。『通学したくなるような教育空間』を目指さなければいけない」と篠田氏は最後に語った。
授業を終えて日吉駅へと向かう帰路、晴れた日には独立館に映し出された影の表情を楽しむのもいいかもしれない。

(横山太一)



編集後記
独立館の階数表示についてこんな興味深い話を聞きました。
「本当は、桜並木から入った所を一階にする予定でした。ただ、先生方から『やはり日吉キャンパスは銀杏並木がシンボルだから、そこを通って中庭から入る所を一階として欲しい』と希望されたので、その意見を採用しました」
なんだか慶應らしい話ですね。でもそのせいで私はたまに混乱して、自分が何階にいるのか分からなくなります笑