昨年11月11日に日吉キャンパスで業界講演会が開催された。全塾ゼミナール委員会が主催し今回で27回目となった業界講演会には、就職活動や研究活動に役立てようと、多くの塾生が参加した。

 

官公庁からは、農林水産省と外務省が参加。塾生新聞はそれぞれの講演を取材した。

 

 

農林水産省

 

日本の国づくりを支えている霞ヶ関の官僚。業界講演会では農林水産省(以下、農水省)から慶大卒の佐藤氏と横山氏が登壇した。

 

「国家公務員の仕事は理想の社会像の実現」と佐藤氏は語る。現在の社会の姿を分析し、達成したい社会の姿との間のギャップを見つける。そこでギャップを生み出している原因を政策課題と捉えて、それを埋めるための政策を立案し、理想に近づけていくのが国家公務員の役割である。

 

国家公務員の仕事と地方自治体、民間企業の仕事はどちらも社会をよりよくするという点では同じだが、国家公務員の特徴として2つが挙げられる。1つ目は使えるツールだ。国家公務員は法律や予算、税制を用いて業務を行う。2つ目は公益性だ。特定の個人や組織の利益ではなく、常に日本全体の利益を考えて仕事をすることが求められる。

 

農水省の目標は「食」と「環境」の継承だ。生命を支える「食」と安心して暮らせる「環境」を「今、私たちが享受するだけでなく未来の子供達に継承していくために日々業務をしている」と佐藤氏は語る。

 

食料は私たちが生きていく上で欠かせない。田んぼや畑といった生産現場から流通、仲卸を通して、私たち消費者の口に入るまでを広く所管しているのが農水省だ。

 

農林水産業の多面的機能から波及した環境を未来に継承するのも農水省の役割だ。ダムのように貯水機能を持つものや、良好な景観をつくる田んぼ、五穀豊穣(米や麦などすべての穀物が豊かに実ること)を願う地方の伝統的祭りなど、農林水産業の機能から生じる「環境」はさまざまある。

 

佐藤氏は学生時代、北海道の農家で住み込みをし、その中で日本の農家が農業に対して不安を持っているように感じた。それを解決したいという思いを持って、農業の制度の根幹に携われる農水省を志望したそうだ。

 

横山氏は「分野に限らず、官民限らず可能性がある慶大生だからこそ、さまざまな活動に取り組む中で、自分の関心があることを探し求めて、ぜひ農水省を含めて就職先を考えてほしい」とメッセージを送って講演を締めくくった。

 

 

外務省

 

外務省からは2名が登壇。主に慶大経済学部卒の小畠さんが講演を行った。

小畠さんは高校時代「模擬国連部」に入っていた。模擬国連とは、各国の大使になりきり、立場を想像して議論するロールプレイングだ。世界大会出場を期に、国際関係の職業に興味を持った。

慶大在学中はダブルディグリープログラムでパリ政治学院に留学。外務省入省後、再びフランスへ在外研修に行き、日仏関係の仕事で活躍した。

例えば、フランス領ニューカレドニアの在ヌメア領事事務所開設準備に携わった。ニューカレドニアの位置するインド太平洋地域は、中国の海洋進出などにより不安定だ。日本は他国と連携し、外交関係のビジョンを共有しなくてはならない。フランスとのパートナーシップを強化するこの領事事務所について「やりがいのある仕事だった」と振り返る。

 

外交官の仕事は「いかに外国に日本を売り込むか」。日本は成熟国家として期待をかけられている。G7はもちろん、新興国、途上国とも連携し、地球規模の課題を解決する立場だ。外交の意義は自国の利益と国際社会の利益を結びつけることにある。SDGs達成に向け、アピールが必要だ。

 

現在国際情勢はひっ迫している。ロシアのウクライナ侵攻では、国際法が破られてしまった。また、パレスチナ、イスラエルの問題では、人道的危機にもかかわらず、G7が十分協調できていない。「法の支配に基づく国際秩序形成」と「人間の安全保障の実現」が課題だ。

外交官は、諸外国の立場を理解しつつ、自国の意見をはっきり主張することが求められる。「難しい仕事だが一生を通した学びがある」と語った。

 

就活に挑む学生へのアドバイスでは「パブリックマインド」や「グローバル」といった言葉を例にとり、こう話した。「就活攻略本の単語を字面通り受け取るのでなく、譲れない軸を自ら定義してほしい」。自身のフランス留学の動機は「食文化への憧れ」と打ち明け、「理屈ばかりでなく、心のときめきを大切に、琴線に触れる生き方を探してほしい」と勇気付けた。

 

総合職採用担当者の髙栁さんは、「国のために働きたい」という軸に基づき就活していたという。そのためには必ずしも官公庁である必要はないと考え、民間企業も受けた。「外務省を目指すなら留学は必須か」との質問には「在外研修は入省後一律に課される。そのため採用前の海外経験は問わない。学生の間は留学に拘らなくていい」と強調した。

「さまざまな業種を研究し、自分の納得する仕事を発見して」と学生にエールを送った。

 

徳永皓一郎飯田七菜子