多くの塾生が行き交う横浜市港北区。その中でも日吉は、慶應とともにある地域だ。日吉地域の情報をどこよりも詳しく発信しているのが横浜日吉新聞。代表の橋本志真子さんに、インターネットを発信媒体とする、地域密着の新聞の運営や今後の慶應義塾や日吉とのつながりについて話を聞いた。

横浜日吉新聞・新横浜新聞の橋本さん

 

日吉地域の情報を住民へ

夏祭りや盆踊りなど日吉地域の情報が地域住民に伝わってないことに問題意識を持った編集長の西村健太郎さんが2015年に作り上げたWebサイトがその始まりである。翌年には、行政区全体単位での情報発信を行うため、「新横浜新聞~しんよこ新聞」も創刊した。

横浜日吉新聞は、主にWebページを通じて記事を発信している。紙媒体では滅多に見られない告知記事が多数を占めているのも特徴だ。それにもかかわらず、横浜日吉新聞は創刊当時から「新聞」を名乗っている。誰もが発信できるインターネットであるからこそ、新聞として信憑性のある情報発信の必要性を感じたと西村さんは語る。

当時はスマートフォンなどの普及率が低かったため、地域と密着して情報を伝える媒体の名称として「新聞」を選んだ。

横浜日吉新聞は、生活インフラと地域コミュニティの維持や構築に関する情報発信に力を入れている。全国紙や県紙の神奈川新聞では発信しきれない地域の情報を提供する。とくに日吉を含む港北区は、東京都心部に通勤・通学する人が多く、神奈川県全体の情報のニーズが低く、港北区のみの情報を提供する必要があったという。

また、新聞と名乗っている以上、公正な報道にも心がけている。一つの記事の取材対象を3人以上としたり、いろんな視点を紹介するなど公正な報道に心がけていると橋本さんは話した。

 

地域に愛着を抱いてもらう

横浜日吉新聞の存在意義は他の新聞社とは異なる。民主主義の維持や政治・行政の監視という役割を果たす全国紙や県紙とは違って、自治会の活動や地域の歴史といった内容を住民にわかってもらい、住民に地域に愛着をいだいてもらう役割も意識している。

日吉地区は、慶應義塾大学日吉キャンパスが相当の面積を占めており、地域住民が自由に出入りするなど地域交流の接点も多い。但し、新型コロナウイルスの感染拡大によって慶應と日吉地域のつながりが弱くなっているのではないかと橋本さんは指摘する。2020年には、横浜市・川崎市と慶應義塾3者が進めた、日吉キャンパスで行われる予定だった東京五輪の英国代表選手団の事前キャンプに伴う地域イベントがキャンセルされ、慶應と地域の交流機会が奪われた。

 

慶應と地域の信頼関係回復へ

さらに、近年、日吉駅の構内に塾生向けの警告文が貼られたり、日吉駅周辺店舗の苦情により新歓活動においてキャンパス敷地外の集合を禁止するなど、地域住民と塾生の関係の悪化が表面化している。実際、塾生が商店街や日吉駅構内を裸で走ったり、ホームで突き落としたりする事件が発生し、逮捕までつながったケースもあった。そこで、塾生と地域住民の相互理解を深めるため、情報発信を通じて双方の交流を促していきたいと橋本さんは明かした。

その一方で、3年ぶりの対面開催となった昨年の矢上祭が地域の子どもに大変好評だったり、保育園の子どもたちが自由に日吉キャンパスでお出かけを楽しんでいるなど、長年にわたって築かれた信頼関係は、微笑ましい交流を導いている。また、伊藤公平塾長体制で進められた「子ども食堂」や、ジェンダー問題やSDGsに関する話題を扱っている「塾生会議」が地域住民の注目を集めており、関係改善の兆しも見え始めている。

日吉地区の歴史を遡れば、東急電鉄によって日吉キャンパスが誘致されたあとに、周辺の住宅街が形成された。地域住民が新参者になってしまうことによって、「モヤモヤした感情」が横たわっていると西村さんはいう。慶應義塾の不祥事が目立つことがあり、完全に相互が理解するには超える必要のある壁があるが、このモヤモヤしている感情を横浜日吉新聞が「言語化」し、報道することによって今後の関係改善に寄与したいという。

(朴太暎)