世界中でブームを巻き起こし、今や世界を席巻していると言っても過言ではないK-POP。そして近年一気に注目を集めている仮想空間、通称メタバース。一見何の関係もないように思われる2つであるが、意外にも密接な関係性があることをご存知だろうか。
K-POPの成功に必要不可欠なファンダムエコノミーの基礎から、話題沸騰中のメタバースとの関係まで、今の時代を生きる私たちが知っておくべきことを学べる本がある。

 

「ファンダムエコノミー入門 BTSから、クリエイターエコノミー、メタバースまで」

アーティストやスポーツなど様々な分野における熱狂的なファン集団や、ファンによってつくり出される文化のことをファンダムという。「そもそもなぜ『ファンダム』に関する本をつくることになったのか」という編集者の対談から始まるこの本は、7つの章に分かれており、海外のファンダム研究者らとの対談も含まれている。ファンに関する写真も挿入されており、K-POP好きなら馴染みのある顔も出てくる。しかし、ファンダムをもつのはK-POPだけではない。コスプレファンやハリーポッターファンに関する話もあるため、K-POPが好きという人はもちろん、そうでない人も、楽しみながら知識を得ることができると思う。

「世界中が韓国のアイドルグループに熱狂するなんていう状況は、おそらく誰も想像していなかったと思いますし、しかもそれが重要な存在でありながらマージナライズされてきた『ファン』というものをビジネスの中心に置くことで巨大ビジネスをつくり上げたことは、やはり革命的なことですね」

ファンダムが巨大ビジネスの中心になることができたのは、ファンが消費者を超えた存在になったからである。CDやレコードなどを買うだけではなく、「参加」を求めたのだ。この動きは1980~90年代の日本でも見られ、その最たる例が握手券である。CDに握手券をつけることで、ファンは音楽をただ消費する消費者ではなく、握手会に参加する参加者となったのだ。K-POPがファンダムを中心に大成功しているのは、ファンが参加したいこと、やりたいことを叶えてきたからだと語られる。

一方メタバースについても、興味深い見解が述べられている。そのうちの1つが、メタバースはまだ存在しない、というものだ。ここでは「すべての仮想世界が非断続的に組み合わさったもの、またはその集大成」がメタバースと定義されているが、今のところその段階まで辿り着いておらず、実際のメタバースが出現するのは5~10年後だという。

しかし、いつか出現するであろうその集大成に多くの可能性が秘められているのは確かな事実である。メタバースの世界では、デジタル資産はブロックチェーンに支えられていて、希少性と価値が認められる。アーティストがアルバムをつくる際にブロックチェーン技術を用いてファンが投資すると、そのファンはアルバムの部分的所有者になり、アルバムの売り上げに応じたロイヤリティを受け取ることができる。これは、アーティストがファンを制作プロセスの一部として取り込んだ新たな経済モデルである。

K-POPのファンがメタバース上で投資をし、アイドルのアルバム制作に「参加する」日もそう遠くないのかもしれない。

K-POPの成長とメタバースの発展。今後も加速していくであろう2つについて、この夏学んでみてはどうだろうか。

(斎藤このは)