どこに住むのか、ということは非常に重要なことである。実家暮らし、一人暮らし、寮生活とさまざまな選択肢がある中で、迷う学生も多いことだろう。今回は、その選択肢の一つ、国際学生寮の魅力について迫りたいと思う。

取材に応じてくれたのは、慶大専用国際学生寮である、綱島学生寮だ。朝夕二食の食事が付いており、一人一部屋というプライバシー空間も確保されていることから、多くの学生から人気の学生寮である。綱島学生寮で留学生を支える、レジデントアシスタントとして活動を行っている、環境情報学部4年の松田拓海さん、商学部3年の平岡大宙さん、法学部2年の佐藤祐美佳さん、タイからの留学生である、トースィージャルーン チャニガーンさん(以下アンさん)にお話を伺った。

4人が思う国際寮のメリットとして、共通していたものは、国や学年の垣根を超えた、さまざまな人との交流である。特にアンさんは、日本に来てからオンライン授業が多い中、国際寮で日本や他国からの留学生の友達がたくさんできたという。そして、そのことによって、自分一人では探すことが難しいような、大学設備の利用方法など、さまざまな情報を得られたそうだ。また、多くの日本人との交流によって、留学前は日本語があまり聞き取れなかったのが、現在では日常会話をスムーズにできる程度にまで日本語が上達したという。一方、佐藤さんは、国際寮では、留学生と英語を使って話す機会が多く、自分の英語の上達にも繋がったと語る。他にも、第一言語が英語ではない学生から、中国語やスペイン語などさまざまな言語を教えてもらうこともあるらしい。松田さんは、大学で音楽の課題が出た際に、カナダで音楽を専攻していた学生に教えてもらったことがあるという。国際寮には、多様な経験を持った人々が集まるため、言語や、その国の文化に限らず、自分の知らない世界を見ることができるのだ。

しかし、一方で、コロナ禍ということもあり、寮内での交流に制限がかかっていることも事実だ。本来、24時間使えるはずの食堂は、現在は食事の時間だけに利用が制限されている。しかし、だからこそ今は、寮外でのイベントに力を入れているとレジデントアシスタントは語る。例えば、先日は日吉のキャンパス見学が行われたそうだ。その他にも、早慶戦の観戦、河川敷での花火、バーベキューなど、留学生と深く交流ができるようなイベントが多く開催されている。さらに、レジデントアシスタントは留学生に対して、困っていることがないかなどを聞くために、定期的にラインを送っているという。コロナによって、対面交流に制限がかかる中でも、出来る範囲で交流が増やせるよう、日々様々な工夫がされているのだ。

さらに、日常生活で感じることができる異国の文化も国際寮の醍醐味の一つだ。例えば、平岡さんは「アメリカの文化は知ってはいたが、初めて寮にきたアメリカ人の学生が実際に靴を履いたまま寮の居室に入ろうとしたのを見て、驚いた」という。外国の文化を本や映像を通して見るのと、実際に目の当たりにするのとでは、大きく印象が異なるに違いない。  また、アンさんは逆に、「タイでは辛いものに慣れているため、日本でも同じようにご飯に七味をかけていたら、周りの人に驚かれた」と話していた。

一方で、国際寮ならではの困難は確かに存在するという。例えば、お互い英語が第一言語ではない人同士が話すときには、上手く意思疎通が測れないことがあるそうだ。また、ゴミの分別の仕方など、文化の違いによる誤解もある。しかし、だからこそ「自分にとっての当たり前が他人にとってもそうであるとは限らない。相手の立場に常に自分を置くことが大切だ」と皆一様に語る。そのことは、外国人との交流に限らず、価値観の異なる他者と交流をする上で、必要なことである。社会に出る前に、そのような学びを得られ、かつ、それを実践することができることも国際寮ならではの経験であるだろう。

コロナ禍で海外に行くことが難しい中、異文化交流は益々難しくなっている。しかし、国際寮ではそれができる。世界各国の文化が混ざり合った国際寮は、「世界の縮図」ともいえる環境であるのだ。

(野尻茉央)