医学部福田教授らが技術開発

慶大医学部の福田恵一教授らは、胚性幹細胞(ヒトES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などから分化した心筋細胞だけを選別し、動物の体内に高頻度で定着させる技術を開発した。新技術は心臓の再生医療への臨床応用が期待される。研究成果は11月30日、米科学誌「ネイチャー・メソッド」の電子版で発表された。
ヒトES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞は、神経や心筋細胞など、成体を形成するすべての細胞に分化できる性質を持つ。しかし現在の技術では多能性幹細胞を目的の細胞だけに分化させることができない。未分化な細胞は生体に移植すると腫瘍(しゅよう)化する恐れがあり、未分化な細胞と心筋細胞を完全に分離する必要があった。
福田教授らは心筋細胞がほかの細胞に比べて多量のミトコンドリアを含むことに着目。ミトコンドリアを染色する蛍光色素を用いて心筋細胞を強く発光させ、99・9%の純度で心筋細胞を精製することに成功した。残り0・1%にも未分化な細胞は含まれず安全だという。
従来の遺伝子操作による選別方法では心筋細胞を傷つける危険性があったが、今回使用した色素は心筋細胞に危害を加えることがない。
また、従来の移植方法では移植した心筋細胞がすぐに心臓組織外に排出されていた。福田教授らは精製した心筋細胞を凝集させ約1000個の塊にして移植する方法を試み、従来約3%だった定着率を90%以上に高めた。
今後は臨床応用に向け、安全性・生産性の向上や移植後の心筋細胞の制御などに対応していく。福田教授は「可及的速やかに臨床応用に取り組みたい」と話している。