唐突だが、この記事を読んでくれているあなたにこんな質問をしたい。

「あなたの将来の夢はなんですか?」

おそらく小学生にこの質問をしたら「サッカー選手」「お花屋さん」「YouTuber」など、微笑ましい回答が返ってくるはずだ。だが、この記事を読んでくれているあなたはおそらく大学生だ。一部のいわゆる「意識高い系」の人を除けば、たいてい「リーマン」「社畜」などといった夢も希望もへったくれもない回答が返ってくるだろう。だがそれでいい。かくいう私もオンデマンド授業は倍速で視聴し、リアルタイム授業ではスマホをいじりながら過ごし、語学ではGoogle翻訳を駆使しまくっている意識低い系底辺大学生である。

前置きが長くなったが、この企画は「推しごと」を紹介する企画である。私の「推しごと」はアニメなので、「身の丈に合った将来」を思い描いているあなたにピッタリな「お仕事」をテーマにしたアニメを紹介したいと思う。

今回、私が紹介するのはアニメ『SHIROBAKO』だ。このアニメは2014年から2015年にかけて全24話放送され、2020年には劇場版が上映された。

小さな部室、ドーナツの誓い、そして社畜へ

山形県のとある女子高。ここから物語は始まる。主人公の宮森あおいは高校のアニメーション同好会の部長として、4人の部員とともに文化祭で上映するアニメ作品の制作に励んでいた。そして、あっという間に季節は流れて卒業式の日、アニメーション同好会の部室で、部長の宮森あおい、アニメーター志望の安原絵麻、3Dクリエイター志望の藤堂美沙、脚本家志望の今井みどり、声優志望の坂木しずかの5人は、またいつか5人でアニメを制作することを誓う。5人の「どんどんドーナツ、どーんと行こう!」の掛け声はまさに「青春」そのものだ。

と思ったら場面は打って変わって都内の夜の車道。宮森は車内でぐったりしながら信号を待ち、車内から見える牛丼屋の広告にうっとりしている。10秒前まで仲間と夢を誓いながら元気に掛け声を挙げていたとは思えない「社畜」っぷりだ。高校卒業から2年半、短大卒業後、アニメ制作会社「武蔵野アニメーション」に就職した入社一年目の宮森に与えられた役割は制作進行。そう、この作品はアニメ制作会社の制作進行として働く宮森あおいを中心にアニメに関わる仕事をする人々のリアルな姿を描いた「お仕事アニメ」なのである。

SHIROBAKOの舞台として度々登場する武蔵境駅前のすきっぷ通り

それぞれのストーリー、一人ひとりが主人公

ここで一度、「制作進行とは何か」ということに触れておこう。制作進行とは、アニメの各話のスケージュール管理や原画の回収、各スタッフへの情報共有などによってスタッフをサポートする役割である。雑用が多くとても地味な仕事だが、アニメ制作にはなくてはならない役割だ。それゆえに宮森は仕事を通じて多くの人と出会う。
そして、この作品最大の魅力は、宮森が仕事を通じて出会う登場人物全員が様々なことをきっかけにして活躍し成長することだ。スランプに悩む新人アニメーター、過去の失敗に囚われて全く作業を進めようとしない監督、そんな監督の尻をあらゆる手段を講じて叩こうとする制作デスク、時代の流れに取り残され会社の「お荷物」となっていた初老のアニメーター、学生時代に抱いた理想と現実とのギャップに失望して捻くれてしまった業界5年目の制作進行などなど――。
年齢も性別も関係ない、「社畜」「リーマン」などといった簡単な言葉では決して表すことのできないストーリーが彼ら一人ひとり、全員に存在する。そして、宮森自身もそのようなストーリーの数々を目の当たりにして、次第に「私の最終目標ってなんだろう」「私はなんのためにアニメを作っているのだろう」ということで悩むようになり、作品の終盤で彼女なりの結論を出して彼女自身も大きく成長する。この作品には無駄な話数が一切ない。本当に素敵な作品だ。

人生の主役はあなた自身!「働く」って素晴らしい!!

あまりにも素晴らしく見どころ満載な作品なので、この作品の魅力や感動したところを語ろうとすると読み切れないぐらいに記事が長くなってしまう。だからもう、私は「とにかく見てくれ。面白いから。」としか言うことができない。

学生時代のクライマックスである大学生活、あなたは「バイトが大変」「就活が辛い」「将来が見えない」などなど仕事にまつわる悩みをたくさん抱えることになるだろう。そんな方はぜひアニメ『SHIROBAKO』を見てほしい。もしかしたら、今の仕事や将来の夢に対して誇りをもてるようになるためのヒントが見つかるかもしれない。そして、この作品を見て『SHIROBAKO』というタイトルの意味がわかった時、あなたはきっと彼女たちのようにドーナツ片手に叫んでいるはずだ。

「どんどんドーナツ、どーんと行こう!」

 

(野中あおい)