SFCのアラブ・イスラーム圏研究会(統括・奥田敦教授)が取り組んでいる「アラブ人学生歓迎プログラム」(ASP)が今年で8年目を迎える。これは、アラブ諸国から日本語を学んでいるアラブ人を約2週間招待するというもの。そして、スキット(寸劇)のビデオを一緒に作成したり、日本語・アラビア語での討論を行う。
2002年までは、アラビア語現地研修で訪れた現地の大学生に、招待してもらうだけの関係であった。しかし、日本にも招待したい、という思いからこのプロジェクトは始まった。以来、アラビア語を学ぶ塾生が定期的にアラブ・イスラーム諸国を訪れスキットビデオの共同作成や文化交流をし、このプログラムでアラブ人をもてなすというように断続的に関係を構築している。
このような背景からこのプロジェクトはあくまで学生主体なのである。招待するために必要な資金は、創立150年記念未来先導基金やOB・OBからの寄付だけでなく、七夕祭や秋祭でアラブの小物を売った売上金で工面されている。ビザの手配から、滞在する間のサポートまで全て塾生が行う。その際のやりとりは、英語は使わず日本語かアラビア語で行われる。互いの母国を学び理解を深めるためであるが、招待してお世話してあげるのではなく互いが共に変わってゆくことが大切なのである。
準備は春ごろからはじまった。現地で日本語を学ぶための教材として使えるレベルのスキットビデオを作ろうと準備する班や、日本語の授業の準備をする班などに分かれて、より充実した2週間になるように限られた時間のなかで試行錯誤してきた。夏に行った参加者の選考の際には日本語力はもちろんのこと、このプログラムを通して何を得たいのかを重視した。このプログラムを日本にきっかけとしてではなく、目的を持った人に参加してもらうためである。
今年のテーマは「アラブと平和を構築する~未来先導型学術交流~」。アラブ・イスラームというと偏ったイメージを持たれがちであるが、政治でなく学術交流というチャンネルで、根本的な偏見をなくしたいのだという。そのため、今年は広報に力を入れ、より多くの人に活動を知ってもらうようにしている。七夕祭や秋祭での模擬店でもビデオを流すなどし、お客一人一人にきちんと説明もしている。また例年、ほかの塾生と触れ合う機会は少なかったが、サークルと協力し茶道を体験したり、一緒にフットサルをしたりする機会を設けた。
4日には、今回日本に招待された6人全員が、和服に着替えて写真撮影などをして着付けを体験した。

シリアから来た、ムハンマド・ワーイル・ザックールさん(23)は、現在大学4年生でコンピュータシステムを専攻している。日本人とアラブ人が一緒にプロジェクトを通して活動することで互いが良くわかる、という目的を信じて今回ASPに参加した。レポートのテーマは義手と義足について。大学を卒業したのち日本でまた学びたいと考えている。今回の限られた滞在期間には、日本語と日本文化についてもっと深く理解し、日本での生活について直接見てみたいのだという。最後に、塾生に向けて「アラブとイスラームの国をメディアのイメージで見ないでください」とメッセージを残した。
(毛利友理香)