提供:レッドボックスジャパン

みなさんは「生理の貧困」という言葉を知っているだろうか。さまざまな自治体が支援を始めたことで、耳にする機会が増えたものの、その実態については知らない人も多い。そこで、日本の「生理の貧困」の現状について、主に若者への支援を行っている、レッドボックスジャパンの代表である尾熊栞奈さんに話を聞いた。

日本の「生理の貧困」

「生理の貧困」とは、生理用品を買う金銭的な余裕がない、または利用できない環境であることをいう。昨年、「#みんなの生理」がオンライン上で行った調査によると、日本ではおよそ2割の学生が、生理用品を買うのに苦労しているという現状が明らかとなった。このアンケートにより、ようやく日本の「生理の貧困」が可視化されたと尾熊さんは話す。

日本で「生理の貧困」の実態が明らかになるのが遅れた背景として、生理をタブー視する風潮と性教育の遅れがあるという。「もともと日本では、生理を隠さなきゃいけないという風潮や、性教育が男女別々で行われているという慣習がありますよね。そのために、なかなか声を上げにくかったり、男性が知らなかったりするという現状になってしまっているのです」。最近になって、ようやく知られるようになった「生理の貧困」だが、ずっと前から存在する問題であると指摘する。

金銭的な面にとどまらない問題

「生理の貧困」では、金銭的問題ばかりが注目されがちだが、実際はすべての女性が抱える問題だ。必要な生理用品の数を持ち合わせていない、あるいは友達などに相談できず借りられないなど、日常的に起こりうる出来事も含まれる。その中でも、「生理の貧困」が引き起こす最も大きな問題は、教育の機会を失ってしまうことだという。

生理によって引き起こされる体調不良などで、授業を受けることができない学生は少なくない。そこまで重い症状がなくても、生理用品を長時間変えられないことで、授業に集中できない経験は、多くの学生がしているだろう。教育が受けられないということは、この先の進学・就職に影響してくる。教育格差というのは、そのまま収入格差に直結し、長期的な貧困に陥ってしまう可能性もあるのだ。

「今、女性の社会進出が謳われている中で、すごく逆行するような問題だなと思っていて。学習だけでなく、スポーツ面でも、生理というだけで個人の能力が制限されてしまう。これだけで男性との差が生まれているのですね」。貧困にかかわらず、すべての学生が生理用品にアクセスできるようになることは、生理を気にすることなく学校生活を送ることにつながる。

学生への教育の必要性

レッドボックスジャパンでは、学校に生理用品を寄付する活動のほかに、男女かかわらず、すべての学生に対し、生理に関する講演会も行っている。「男性が生理用品や生理についての正しい知識を身につけることで、身近な女性をサポートできるきっかけにもなります」と、その重要性を話す。

ほかにも、女性個人の問題ではなく、社会全体で解決していく問題であるという認識を、学生のうちに共有することは、将来の進路選択にも影響するという。「『生理の貧困』の問題として、生理休暇が取りにくいこともあります。こういった女性を支援する体制が整っているかどうかということは、就職先を選ぶ指標の一つになりえると思います」。学生全体の将来までを考え、サポートすることが大切だと話す。

生理用品が寄付された学校の様子
提供:レッドボックスジャパン

地球環境を考えるきっかけにも

生理について考えることは、地球環境について考えることにもつながる。現在、大きな問題となっている海洋汚染問題だが、実は生理用品のごみは、海で5番目に多く見つかるプラスチック製品だと言われている。生理用品の正しい捨て方を知らないために、地球環境の悪化に加担しているということにもなってしまう。

レッドボックスジャパンが学生に寄付している生理用品の中で、特に勧めているものとして、イギリスで開発されたFabLitteleBagを挙げた。生理用品を捨てる用の袋であるこの商品は、植物性のもので、燃やすことで自然に還すことができる。

「自分の体を大切にすることはもちろん、相手の体を大切にすることから、地域社会、地球環境のことまで配慮でき、考えるきっかけを作りたい」。生理用品の寄付を通して、環境に及ぼす問題まで考える機会を学生に提供できるようにしているという。

目指すは生理用品の無償化

ここ数年の間に、多くの国で「生理の貧困」に対する取り組みが進んでいる。昨年2月には、スコットランドでは世界で初めて、すべての人に生理用品を無償で提供する法案が可決された。ソウルやボストンなどでも、若い世代への無償配布が行われている。

日本でも、今年3月に政府が生理用品の無料配布に予算をあてることが決定された。この決定に対し、「生理の貧困」の根本的解決にならないなど、否定的な意見もある。しかし、尾熊さんは肯定的に捉えている。「まずは、知ってもらう機会を増やすこと。このニュースを通して、初めて知ったという人も多いと思います。そこから生理に対する正しい知識を身につけたり、考え方を改善したりするきっかけになるのではないかなと思います」

一方で、「生理の貧困」問題が一つのブームで終わってしまうことも危惧している。声を上げやすい環境になった今、支援の輪が広がり、継続的な取り組みがなされることが重要だ。

「最終的には、学生のための生理用品の無償化を目指しています。近い将来、日本でも実現すると思います。少しずついろんな人に声を届けて、生理への意識を変えてもらうという地道な活動が大事になりますね」

まずは、「生理の貧困」を知ること。そして、この問題を他人事にせず、社会全体で取り組むという意識を持つこと。「生理の貧困」は意識を向けるだけでも、解決への大きな一歩となる。

(倉片真央)