発展途上国とスマートモブ

国家とメディアの関係性は、SNSでの政治的意思表明に大きく関わる。通信事業者と政府の結びつきが強い傾向がある発展途上国では、スマートモブの発生を抑止するため、インターネットの遮断が行われることがある。

今年2月、ミャンマーでは、国軍によるクーデターに対する抗議デモ抑止のため、当局がインターネットを遮断している。このような情報通信技術の規制は、あくまでも対症療法で、問題の本質を見誤ることになると土屋教授は指摘する。

「通信を使って人々の声を封じ込めたり、デモをして政治的な意思表明をしたりするだけでは、問題は解決しない。体制側の意向と人々の意向をすり合わせることが問題の本質だろう。ただ、スマートモブのリーダーは、はっきりしないことが多く、意向のすり合わせが難しい。この場合、多くの人が納得しないと解決しないのだ」

インターネットの遮断自体の効果にも疑問が残る。スマートモブの活動拠点となるソーシャルメディアを機能停止させることは難しい。海外のサーバーを経由したり、VPN接続したりすれば、国内の通信で禁止されたSNSへのアクセスが可能になるからだ。もし完全にネットワークを止めてしまえたとしても、国際社会からの非難に耐えきれないと考えられる。

情報通信技術が守るべきもの

「情報通信技術が守るべきものは、二つある。デジタル化された資産としての金融データと、何が正しいかという判断のもとになる情報だ。これまで人々の間に共通の認識基盤を形成してきたマスメディアへのアクセスが減っている。情報源が偏ってしまうと、健全な政治的意思表明ができないかもしれない。このままでは「分断」が進んでしまう可能性がある」と警鐘を鳴らす。

情報通信技術により、新しい政治的意思表明の形が登場する中で、問題の本質をきちんと見抜けるか。これが、今後の政治において、ますます重要になってくるだろう。

 

(塚原千智)