私たちにとって身近で親しみのある“音楽”。その音楽を多様な角度から見つめてみる連載、音楽カケル。ようこそいらっしゃいませ。

 

“音”があるのが当たり前な人は、“音”が聞こえないと違和感を覚える。例えば、音無しで始まるCMの「それまであった音を急に無くすことで視聴者の目線をテレビに引き付ける」という狙いにまんまと引っかかる人も多いだろう。では、聴覚に障害のある人々はどうだろうか。どのように音楽を楽しんでいるのか。彼らの生の声を聞くことで、今まで知らなかった“わたしたちの音楽”の一面を認識できるだろう。ということで、第2回のテーマは「音楽×聴覚障害」だ。

 

今回は、先天性の聴覚障害を持つ女性に話を聞いた。彼女は、学生時代、ろう学校を経て、大学では書道専攻で学び、現在は会社員だ。補聴器無しでも車の音くらいは聞こえ、音楽も補聴器を使わずに聴いているという。言葉に関しては、補聴器を使用しても把握するのは難しいそうだ。日常では、テレビから音楽を聴くときしか、補聴器を使わないと教えてくれた。

 

音楽の楽しみ方

 

普段音楽を聴いたり歌ったりしますか?また、その頻度はどのくらいですか?

ほぼ毎日音楽を聴きますが、あまり歌わないです。

 

好きなアーティストや曲、その理由を教えてください。

アーティストはBruno Mars、Cardi B、プリンス、BTS、Dua Lipa、The Weekndなど。曲は、Falling/ハリー・スタイルズ、filter/BTS、Raspberry Beret/プリンス、Finesse/Bruno Mars。

 

他にもありますが、上記のアーティストと曲は特に好きなものです。その理由は、歌詞の単語が一つ一つきれいにすんなりと入ってくる、というのもありますが、リズム、曲調など全体的に好きだからです。歌詞から気に入ることは少なく、曲調から気に入っていくパターンが多いです。

 

どのように音楽を楽しんでいますか?

主にApple Musicで聴いています。You TubeでMVを楽しむこともありますが、見ないことが多いです。カラオケは、友人に誘われたら行きますが、自分から進んで行くことはあまりないです。

 

「いいな」と思う曲の評価基準を教えてください。

歌手で決めることはあまりなく、ランダムに流れるプレイリストから気に入った曲を選び、そこから歌手を好きになっていきます。その歌手の曲を聴いてからMVを見て、歌詞を知っていきます。直感で「好き」を感じたら「いいな」と思う曲です。

 

 

音楽の存在

 

ライブなどに行ったことはありますか?

Bruno Marsのコンサートは日本とラスベガスの2回行きました。本場のライブ会場はずっと楽しかったので、また行きたいなと思っています。

 

音楽に関する思い出を教えてください。

Bruno Marsのラスベガスのコンサートで手話通訳をつけて観賞したことです。アメリカでは聴覚障害者がコンサートへ行くときに、通訳を付けてほしいと会場に連絡すると、無料で手配してくれます。その話を聞き、手配してもらいました。ライブ中のトーク、歌詞ごとの手話の表現、さまざまな部分で新たな視点でのコンサートを楽しめました。こういう楽しみ方もアリだと思いました。

 

音楽をもっと楽しむために「こうなってほしい」と思うことはありますか?

特にないです。音楽は進化し続けるものだし、芸術の領域でもあるから、もっとミュージシャンの方々本人が好きな音楽を生み出していくだけでも十分かなと思っています。

 

あなたにとって音楽とは?

日常の一部です。

 

 

彼女の返答の中には、想定していたものと同じもの、違うもの、どちらが多かっただろうか。聴覚言語障害者は、日本に35万人ほどいるとされており、彼女の音楽の楽しみ方はそのうちの一通りである。聴覚障害と言っても、その程度は人により様々で、音楽の楽しみ方も十人十色である。「これが聴覚障害者の音楽なのだ」と定義してほしくはない。大切なのは、自らいろいろな音楽のカタチを、“わたしたちの音楽”の一面を、知ろうとしていくことではないだろうか。

 

 

 

(庄子珠央)