《新メディア時代を生きる》第1回「メディアには意思が必要」Choose Life Project代表・佐治洋さん

マスコミやソーシャルメディアへの不信感が強まるなか、新鮮な取り組みをしている次世代のメディアや発信団体に取材する「新メディア時代を生きる」。第1回は、テレビの報道番組やドキュメンタリーを制作している有志が2016年に立ち上げたネットメディアChoose Life Project(以下、CLP)の代表、佐治洋さんに話を聞いた。

CLPは、国会や選挙に関するショート動画の投稿に加え、コロナ禍以降は、多様な出演者を迎え社会問題や時事問題に関する対話番組の配信をYouTube上で行っている。代表の佐治さんは今年3月TBSを退社し、CLPでの番組作りに専念している。9月には、クラウドファンディングで3000万円もの寄付を集め、今後活動を広げていく予定だ。
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「どう伝えるか」より「何を伝えるか」

――CLP立ち上げの背景やTBS退社時のメディアに対する問題意識をお聞かせください。

TBSにいた頃は、報道特集などのディレクターを担当していました。報道特集自体は、ジャーナリズムとしてやり甲斐があり、テレビの可能性も常々感じていました。しかし、世論形成に影響力を持つ日々の情報番組は、各局同じようなテーマを扱い、横並び意識が強いことが違和感としてありました。他局との差別化を図ろうと、『何を伝えるか』ではなく、『同じテーマをどう面白く伝えるか』に力を入れているテレビ報道に問題意識を感じていました。

 

――Choose Lifeの名前の由来は何ですか。

Choose Lifeという名前は、投票に行くことの大切さを伝えるために付けました。2015年、安全保障関連法案の強行採決による憲法解釈の変更を目の当たりにしたとき、民主主義について初めて真剣に考え、民主主義のために何ができるか考えたときに、投票率を上げることが出発点だと思いました。自分で投票に行き、判断し、責任を持つということをみなさんに伝えたいと思い、Choose Lifeという名前を付けました。

良識を担保しつつ、オープンであるメディア

――CLPが理念として目指している「公共のメディア」とはどのようなものでしょうか。

『知り得た情報はみんなのものである』というのが、公共のメディアの出発点です。そのうえで、良識、コモンセンスを追求していくことが公共のメディアには必要だと考えています。新自由主義的価値観が限界を迎え、分断が深まるなか、「公共=Public」が世界をつなぐものだと考えています。CLPとしても、公共とは何か常に探し続けています。

 

――「メディアを繋ぐメディア」とはどういう意味でしょうか。

ネットメディアは、設立理念として対マスメディアを掲げることが多いですが、CLPは、テレビや新聞のいいところを繋いでいきたいと考えています。その意味で、テレビによく出る方や新聞記者の方にも配信番組に出演してもらっています。

Choose Life Project代表・佐治洋さん

番組作りは「何を伝えるか」を最重要視

――「検察庁法改正案」、「大阪都構想」といった時事問題から、「ごみ問題」や「ジェンダー」などの社会問題など、幅広いテーマに関する配信をしていますが、配信のテーマはどのように決めているのでしょうか。

一つは、今何を伝えなければならないかというジャーナリズム的な目線です。大阪都構想や日本学術会議の問題はこれに当たります。もう一つ、福島と沖縄はキーワードとしてあります。原発問題、米軍基地の問題という日本全体で考えなければいけないことが詰まっているにもかかわらず、キー局が継続して伝えることはないからです。ジェンダーに関しては、ルールとして出演者の男女比1:1としています。日本の社会構造上、出演者を選ぶとき、どうしても男性が多くなってしまいます。そこで、CLPでは、意図的に比率を1:1としています。

 

――検察庁法改正案や日本学術会議の任命拒否、福島・沖縄に関する問題を多く扱うため、左派メディアだと指摘されることも多いと思いますが、メディアの政治的中立性についてどう考えますか。

中立性とは曖昧な概念で、第二次安倍政権以降、中立軸は大きくずれました。何を伝えなければならないか考えると、おのずとテーマが決まるので、リベラル色が強くなっているんだと思います。左派メディアであるという意識はなく、みなさんに材料を提供するという意識です。伝えるべきテーマについて対話するためには、自民党にも出てもらいたいと考えています。実際、検察庁法改正案の時は、石破議員に出演してもらいました。

メディアとは「人と人を繋ぐ場所」

――本連載のテーマは「次世代のメディア」ですが、佐治さんにとってのメディアとは何ですか。

メディアとは媒体、繋ぐ場所です。テレビにいたころは繋ぐ距離が遠かったが、ネットで配信していると、繋ぐ距離感が近くなったと感じています。コロナ後の世界を考えるうえでキーワードとなる「公共」を模索していくために、メディアは必要不可欠だと考えています。

メディアには意思が必要

――本連載では「誰でも発信者になれる時代」ということで、「発信者」も一つのキーワードとしています。発信者として心がけていることがあれば、教えてください。

個人が持つ良識、コモンセンスだと思います。なんでもありな、相対主義的な世界になった今、例えば、ヘイトも表現の自由と考える人もいます。しかし、メディアは意思を持って、ヘイトはいけないことだと発信しなければいけません。米大統領選に関する米メディアの報道では、民主主義として間違ったことを言っているトランプ氏の発言は伝えていません。メディアは「ルール違反だから伝えない」という意思を持って発信するべきだと思います。意思がないと単なるプラットフォームです。

 

――最後に、学生にはどのようにメディアに向き合ってほしいですか。

受け身で情報を受け取るという意識は捨て、主体的にメディアに参加してほしいと思います。友達や親と対話すること、SNSで発信することもその一つです。公共の一番の敵は無関心、傍観者であることなので、主体的であってもらいたいです。

 

今回は連載1回目ということで、筆者自身、配信をよく見ているChoose Life Projectを取材した。代表の佐治さんは、これからの世界を繋ぐキーワードとして、「公共」とそれを支える「良識=コモンセンス」を挙げていた。分断が加速する現代だからこそ、「人と人を繋ぐ場所」であるメディアが良識を提示していかなければならないという主張には説得力があった。「メディアは意思を持つ必要がある」という考えはとても新鮮だった。「メディアは媒体であり、意思を持つべきではない」という主張が一般的と思われるが、媒体としてのメディアとコンテンツとしてのメディアは別物であるため、コンテンツとしてのメディアは責任を持って良識を発信していくべきと感じた。

(粕谷健翔)