【特別企画】「黒黄の系譜」~浜本将人・蹴球部副将(後編)

前編に引き続き、浜本将人・慶應義塾體育會蹴球部第110代副将(以下浜本)インタビューをお届けする。後編では、浜本が実際に指導を受けた松永敏宏、また現在も指導に与(あずか)る林雅人両蹴球部監督の人間性を垣間見たうえで、これまでの浜本を形作ってきたラグビー思想、選手、そして今季副将として臨む上での自身のスタンス、最後に後輩に託したい思いなどを伺った(インタビューは2009年10月3日に行われた)。


松永敏宏と林雅人。ふたりの指導者との出会い

――浜本さんは慶應義塾體育會蹴球部に入部後、2人の指導者との出会いがありました。松永敏宏監督、そして林雅人監督ですね。まずは「人間・松永敏宏」について伺おうと思います。

はまもと・まさと/1988年神奈川県生まれ。4歳で初めて楕円球に触れる。田園ラグビースクール(4歳から11歳まで)→慶應中等部→慶應高→慶應大。ポジションは主にCTB。今季、慶應義塾體育會蹴球部第110代副将に就任した。低く鋭い、慶應の伝統「魂のタックル」の体現者【Photo:安藤貴文】

浜本 チームで一番純粋な方、でしょうか。「チームをまとめていきたい」という4年生の意思を最大限尊重して、精神的な部分でチームを牽引していました。全体練習後に、プロップ(PR)の選手を引き連れて自ら走ったりされていて、そこには男気を感じましたね。松永さんには「人間力」というものを教わりました。  


――では「人間・林雅人」とは?

浜本 チームの誰よりもラグビーのことを愛している人ですかね。僕は、マットさん(林監督の愛称)にラグビーの魅力を教わった人間です。マットさんに出会えて本当に良かった。だからしっかりケガを治して、復帰してプレーを見せることで恩返ししたいなと強く思いますね。あ、あと昨季の(山梨・山中湖での)夏合宿で「(未来は)今、この一瞬の積み重ねでしかない」とマットさんが仰っていて、これは僕の中では大きな言葉というか、この言葉を支えに今頑張ることができているのも事実です。


――パッと見、理論家肌というか、ラグビー含め物事をロジカルに捉えそうな方で、もちろんそういった面も持ち合わせているんですけど、その実「メンタル、メンタル」と常々仰っていて、傍から見ても魅力的な方だなと(笑)。

浜本 普段は気さくなオジサンって感じなんですけど(笑)、ひとたびラグビーのことになると負けん気の強さが顔を覗かせるんですよ。朝早くから夜遅くまでビデオやパソコンと睨めっこして、相手チームの研究とか、勝利の方策を常に考えている。兎に角、オンとオフの切り替えが抜群に上手い方ですね。


――そういえば、先日スポーツライターの藤島大さんが「今季(2009年)の慶應のラインアウトの組み立て・相手防御のかわし方は、発想と実践の緻密さにおいてトップリーグ上位よりもさらに上かもしれない」とコラムに書かれていました。

浜本 そうなんですか。やっぱり、マットさんは日本で一番のラグビーの指導者ですよ。


――少し戦術的な話をすると、慶應は昨季までの「モーションラグビー」に変わり、今季「ナチュラルラグビー」を旗印として掲げました。浜本さんはこの「ナチュラルラグビー」というのを、どのように捉えていますか?

浜本からは「チームの誰よりもラグビーを愛している」との評を得た指揮官。改めて、こういった「熱」のある指導者に恵まれた、慶應蹴球部部員の幸せを思う【Photo:羽原隆森】

浜本 昨季は川本(祐輝、’08年度卒、現NTTコミュニケーションズシャイニングアークス所属)さんという素晴らしいSOがいて、彼ひとりが試合をコントロールしていたと思うんです。でも今季はそうではなくて、選手一人ひとりが試合中は無心で、瞬間瞬間の判断でやっていこう、と。「ボールを動かしていく」という根底は変わらないですけど、メンタルの部分で無心でいこうと。考えすぎない。「ナチュラル」でもあり「シンプル」でもあるというのは、そういうことだと思いますね。


――キーワードは「無心」?

浜本 僕はそういう風に捉えています。


――先ほどから何度か川本さんのお話が出ましたけど、やはり浜本さんの中では川本さんというのは大きな存在だったのですか?

浜本 実際、川本さんには結構厳しくされて、〈何だよ〉と思うことも正直ありました(笑)。でも、今振り返るとああいう厳しさってのは大切なんだなと思います。自分も川本さんに育ててもらったようなものですし、今は感謝しかないですね。


「ローファーストタックル」。慶應の精華に迫った10年間

――実際のところ、「魂のタックル」という慶應のスタイルと、浜本さんの泥臭く、愚直にプレーするという信条とが合致したというのは大きいですか?

浜本が「影響を受けたプレーヤー」に挙げたうちの一人であるFL伊藤隆大(頭に包帯を巻いた選手)【Photo:有賀真吾】

浜本 それは間違いなく大きいと思います。因みに、慶應でラグビーを始めて今年で10年目なんですけど、終盤になって漸く「ローファーストタックル」の真の意味が分かってきました。


――私はカメラのファインダー越しにラグビーの試合を眺めることが大半なのですが、後で写真を見てみても、慶應のタックルの「低さ」と他大学のそれとは、全く別次元であるといつも感じてます。

浜本 確かに(笑)。足首、膝下にズバっという感じですよね。因みに僕が(慶應義塾體育會蹴球部に)入部して影響を受けたのは、ポジションは違いますけど青貫(浩之、’06年度卒)さん、千葉(和哉、’06年度卒)さん、そして昨季の伊藤(隆大、’08年度卒)さんですね。このフランカー(FL)3人の、まさに「針を刺すような」低く鋭いタックル。純粋に格好良いし、あれこそが慶應蹴球部部員の目指すべき姿だと思っています。


――今「お手本にしているプレーヤー」の話が出ましたけども、プレー面もさることながら、人間としても尊敬できる選手というのは今までにいらっしゃいましたか?

浜本 いやぁ、それは数えきれないくらいいて、なかなか1人には絞れませんけど(笑)。敢えて挙げるとするならば、花崎さん、金井さんの両主将ですかね。


――具体的には?

浜本 花崎さんは、とにかくストイック。でも押しつけがましいストイックさではなくて、笑顔を絶やすことなく純粋にラグビーを楽しんで、かつ〈勝ちたい〉という熱い思いを常に持ち続けていた人。金井さんの闘争心むき出しのスタイルには、僕自身かなりインスパイアされましたね。 


――そういった尊敬すべき先輩の背中を見続けて早4年、2009年は自ら副将としてチームを牽引する側に回ったわけです。松本大輝主将(環4)がいて、浜本さんがいる。そういう状況下で、ご自身どういったスタンスで今季に臨もうと考えていますか?

安藤貴文】
浜本は今季の慶應を「伸びしろがあるチーム」と表現した(写真中央は、'09年度関東大学対抗戦の初戦の筑波大学戦、敵陣で突破を図るSH古岡承勲)【Photo:安藤貴文】

浜本 松本は言葉巧みというか、人を上手く引っ張っていく能力に長けた男だと思うんですけど、僕はそれほど器用な人間ではなくて。人前で喋るのもあまり得意な方ではないので、自分はプレーで示すというか。「背中を見せたい」とは常に思ってますけど…。


――じゃあ、今はもどかしくて仕方ない?

浜本 もどかしい…いや、もう「もどかしい」のレベルはとっくに通り越してるかな(笑)。


「感謝の気持ちを忘れない」、そして「自分にベクトルを向ける」

――因みに現在、浜本さんはケガの影響もあって客観的にチームを見る立場にあると思うんですけど、今季のチームをどのようにご覧になってますか?

浜本 まだまだいける、というのが正直な感想ですね。「伸びしろ」のあるチームだと思っています。


――今季の慶應、どこまで行きますか?

浜本 関東大学対抗戦、全国大学選手権ともに優勝できるメンバー、スタッフ、環境は整っていると思います。あとは選手たちがどれだけ結果を残すか、というところでしょうね。


――林監督も「1999年の再現を目指す」って先日仰ってましたし、今季の慶應は期待大ですね。

浜本 ええ。期待してもらって構わないと思います。


――以下、随分抽象的な話になって申し訳ないのですが、今回、浜本さんに一番お聞きしたかったのは、浜本さんが慶應義塾體育會蹴球部に入部したことで培ったもの、感じ取ったものは何かということだったんです。4年間、體育會蹴球部という厳しい環境に身を置いてきたからこそ紡ぎだされる言葉が絶対にあると思ってやってきたわけです。

「早稲田を倒さないと、大学生活終われないですよ」(浜本)。中等部時代から10年間に渡り、最も身近な好敵手として存在した早稲田。その積年のライバルを蹴散らして、気持ちよく慶應でのラグビー生活に終止符を打ってもらいたいと願うばかりだ【Photo:有賀真吾】

浜本 色々ありますね(笑)。まず大学3年生までの3年間でいったら、目標に向かって今自分のできることは何かということを考え抜き、それを全力でやり切ることの尊さというのかな。その部分を昨季までの3年間で培ったと思います。4年生になってからのこれまでの期間で言ったら「折れない心」ですかね(苦笑)。ケガはとにかく自分との戦いですから。兎に角、僕が蹴球部で過ごしてきて強く感じるのは「感謝の気持ちを忘れない」こと、そして「自分にベクトルを向ける」という2点でしょうか。


――その2点、詳しく教えてください。

浜本 今の恵まれた環境は、周囲の方々のサポートなしには成立し得ないもの。与えられた環境を当然と考えてるようでは駄目です。監督、コーチ、マネジャー、父兄やファンの方々、もちろんチームメイトにも「感謝の気持ちを忘れない」で、謙虚な気持ちを持って日々持って過ごしてほしいな、と。次に「自分にベクトルを向ける」ということについて。実際、蹴球部は厳しい世界で、誰にも等しく困難な苦境が訪れると思います。何か自分に困難な状況が降りかかったときに、環境や他人のせいにせず自分を省みてほしい。僕たち蹴球部部員は「学生日本一」という誰もできないようなことに挑戦している。苦しくなったときに何かのせいにしたり、誰かのせいにしたりすることは簡単で、誰にでもできることだと思います。でも、そうしても何も解決には至らない。「未来と自分はいつでも変えられる!」。自分を変えることこそ、困難な状況を打破する道だと思います。そういう意味での「自分にベクトルを向ける」。変わる余地は無限にあるはず。時間の使い方、食事とか日常生活…自身の行動ひとつで変えられることは無数にあります。ベクトルを自分に向け、(苦しいこと、楽しいこと含め)全てのことを成長の糧としていくことがラグビープレーヤーとしての、ひいては人間としての成長なのかなと思います。誰にでも出来ないようなことに挑戦していることに誇りを持って、常に謙虚に自分自身と向き合う4年間にしてほしいと強く感じますね。


――今、素晴らしいお言葉を頂戴しました。では、最後に浜本さん個人の今季の抱負をお聞かせ下さい。

浜本 僕個人としては、何が何でも早稲田を倒したい。早稲田という存在は常に僕の隣りにあって、自分を成長させてくれた存在でもあるんですけど、一方で(慶應義塾體育會蹴球部の)どの部員よりも早稲田に対してライバル心、負けたくない気持ちを抱いていると思います。全国大学選手権決勝で早稲田とやりたい。そして、その舞台に必ず立つ。早稲田を倒さないことには大学生活終われないですよ。


After Recording 取材を終えて…

浜本将人選手は個人的にずっとファンであったのだが、これまでロングインタビューする機会にはなかなか恵まれなかった。練習、試合時の気迫こもったプレー、加えてどこか無骨な雰囲気を漂わせる寡黙な選手――。イメージばかりが先行し、〈ラグビーに対してストイックな人なんだろうな〉と朧気ながら考えていたが、現実は筆者の想像の範疇を遥かに超えていた。

今回本人に話を伺った中で、どうしても忘れられないエピソードを、最後にひとつ。

「例えばステーキ屋さんに行くとしますよね。そこに口を拭く紙があるじゃないですか。あれで肉を挟んで、ギュッギュッと余分な脂を抜いてから食べるんですよ」。

酒を口にしない、くらいだったらまだ分かる。だが、先述のエピソードの類はちょっと聞いたことがない。

「他の蹴球部部員と一緒に飯行っても〈マジかよ〉みたいな顔されるんですよね(笑)」。
ストイックにも程がある。ますます彼のファンになった。

(2009年10月10日更新)
取材 慶應塾生新聞会・大学ラグビー取材班