次世代の通信規格である5G(第5世代移動通信システム)。5Gの「G」とは、「generation」(世代)のことを指し、2020年に日本での商用化が見込まれていることから、ニュースや広告などで取り上げられる機会が増えている。「日本のインターネットの父」として知られる村井純教授(慶大環境情報学部)に5Gの概要と今後の展望を聞いた。

 

5Gの特徴

そもそも5Gとは、3GPPという移動通信システムの標準化を進める業界団体が定義したものである。従来のシステムよりも「低遅延」、「超高速・大容量」、「多接続」であるのが特徴だ。

「超高速・大容量」という特徴に関しては、映像のクオリティ向上が分かりやすい変化であると話す。「例えば『Netflix(ネットフリックス)』で映画を見る場合、環境が悪いと映像が止まってしまったり画質が落ちたりするが、その煩わしさがなくなる」と説明した。

「低遅延」とは通信においてタイムラグが少なくなることを指す。この利点を活用できる技術として、眼鏡型AR(拡張現実)デバイスをあげた。目にした映像をサーバーに送り、そこからデバイスに情報を戻すという、一連のプロセスのスピードが格段に上がることが見込まれる。

村井教授は低遅延によって実現されるデバイスについて、次のように語り、期待を寄せた。「眼鏡をかけているときは奈良時代の奈良を、外したときは現在の奈良を見ることができる。『できればいい』と思われていた製品が現実になる」

 

5Gがもたらす影響

5Gでは二つの周波数帯が使われる。一つ目は「サブ6帯」といわれる6GHz(ギガヘルツ)未満の周波数帯だ。こちらは従来の移動通信で使われている周波数帯である。5Gの環境下では、携帯電話の通信速度や反応を早くすることができるため、今よりも性能の良いものになるという期待が持てる。

もう一つが28GHzの周波数帯だ。「ミリ波帯」とも呼ばれ、これまでの移動通信には利用されていない。サブ6帯と比べると、たくさんのデータを詰め込むことができるが、電波の通り道に障害物があると通信が遮られるという特徴があり、扱いが難しい周波数帯だ。

建築現場での活用も期待されているという。村井教授はその可能性について次のように話す。「山を切り拓いて新しい都市を作ろうとするとき、その現場にミリ波帯の基地局を設置したとする。そうすると、ミリ波によってショベルカーなどの建設機械を通信でつなぐことができる。そのうえで、機械にカメラとセンサーを取り付けることにより、遠くにいながらも工事中の映像をリアルタイムで分析把握することができる」。遠隔で工事ができるようになれば、人手不足に悩む建築業界にとって革命であることは間違いない。

ミリ波帯は活用事例が少ないことから、アイデアが求められているという。「技術を作る側の人間として、人間の創造性を信じている」と村井教授。ミリ波帯には全く新しいビジネスを創出する可能性が秘められているのだ。

 

未来の展望

5Gは先述の通り、五世代目の通信規格を意味する。人間は技術を開発し、自らのアイデアによって新たな文明を築き上げてきた。「携帯電話がスマートフォンに化け、身体とともに動くコンピューターになり、我々の生活を変えていったのはたった30年の出来事である」と村井教授は語る。

新しい技術のうちの一つである5Gだが、人工知能や映像技術との組み合わせによって社会に変化をもたらす。通信の新時代はすぐそこまで来ている。

(柿崎龍)