くらしはデザインで溢れています。しかし、そのほとんどが一般的に「デザイン」としては認識されていません。生活の「当たり前」には、それぞれ意味があります。通年連載を通して、デザインの奥深さをのぞいてみましょう。

知らない言葉に出会うと、私たちは辞書を引き、意味を知る。小さな字で一ページ一ページ細かく言葉が羅列されているだけに見えるが、実は様々な「デザイン」が施されている。

三省堂辞書出版部の武田京さんと出版物のデザインを行うデザイン室の佐野文絵さんは「辞書はミリよりはるかに小さい印刷用の単位でレイアウトを組んでいる」と話す。

読みやすい紙面にするため、行間や文字のフォント、大きさなど隅々にまで趣向を凝らしている。例えば、ほんの2ミリ四方の小さい文字で書かれた解説文でも漢字に対してかなを最大限まで拡大している。これにより、漢字とひらがなのバランスがとれ、より読みやすく感じることができる。

武田さんの担当する漢和辞典『漢辞海』は初版を発行する際、15回ほど紙面を組み替え、試行錯誤を繰り返し、発行に至ったという。その結果、読みやすい辞書として読者に受け入れられ、2000年の初版発行以来、3度の改定がされているにもかかわらずレイアウトはほとんど変わっていない。細部に工夫を重ねることで小さいながら内容の詰まった紙面を実現している。

デザインの工夫はレイアウトだけではない。表紙や紙の素材も装丁に含まれる。中の紙は、薄さと丈夫さに特化した辞書専用の紙を使用している。小説などで使われる紙では、莫大な語数を収録する辞書ではかなりの厚みになってしまうためだ。また、薄さゆえに文字が裏写りしてしまうことがないように、透過性の低さにもこだわっている。

企画の趣旨によって紙の種類を選択しており、児童向けの辞書では子どもの小さな手でもページをめくることができるように、一般の辞書より厚みのある紙にしている。紙の色にも差がある。児童向けには文字のはっきりと見える白色を、幅広い世代が使用する通常の辞書では目に優しいクリーム色を採用しているそうだ。

さらに、実用性を踏まえながら、デザイン性も追求している。昨年、同社が発行する『新明解国語辞典』は同一内容だが表紙の色が異なる青版を創業135周年特別企画として発売。赤・白・青の三色の版がそろったが、限定版の青版は増刷が決定するほどの好評を博した。読者のターゲットやそれぞれの辞書のイメージに応じた装丁にすることを心がけ、時代に沿って常に変化させているのだ。

電子辞書やインターネットで瞬時に言葉を調べられる現代では、紙辞書を使う機会が減ったように思える。しかし、「紙辞書には、目立たないがいろいろなデザインの力が働いている」と武田さんは語る。実際に紙をめくり指先で情報に触れることで、デジタル辞書では得られない紙辞書ならではの魅力を直に感じることができるのではないだろうか。

(石嶺まなか)