青森県八戸市。青森県南部の太平洋側に位置する都市である。晴天が多く自然豊かなこの地の主要な産業のひとつは漁業だ。日本一の水揚げ量を誇るイカをはじめ、サバなどさまざまな海の幸が獲れる。

青森県の食料自給率は1‌0‌0%を上回る。「八戸、青森は食材の宝庫だ」と語るのは、「八戸前沖さば」のブランド化を推し進め、その魅力を発信する料理人、沢上弘さんだ。
 
昔は、大量にとれるサバは価値のないものだと思われていた。そんな中、ある大学教授が八戸で食べたしめサバに感激し、ブランド化を提案した。一匹の魚に付加価値をつけ、八戸のサバを名物に昇格させたのだ。「地元の人が認めてはじめてブランドたりえる」と沢上さんは話した。

八戸前沖さばの特徴は、脂がよくのっていることだ。肉厚な身を口に入れた瞬間、とけだす脂とともに旨みが広がる。サバの大トロと言えるほどの極上のおいしさは、ほかの地域のサバでは味わえないだろう。

人口が減り続ける青森県の中だけで食料は消費しきれない。沢上さんは「人口密度が高い所にいいものを送る」と、外の地域に八戸の食を発信することについて語った。

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デーリー東北新聞社の敷地内にあるしんぶんカフェは、同社が建設し、沢上さんが代表を務める「日本の味 俵屋」が運営している。

しんぶんカフェを開設した目的は3つある。

1つ目は地域コミュニティー活動のさらなる活性化だ。デーリー東北新聞社は地域コミュニティーの接着剤となるべく事業を展開している。そのひとつとして開設されたデーリー東北ホールに隣接してしんぶんカフェはつくられた。

2つ目は地域の食文化の情報発信。カフェコーナーでは地元の食材を使ったピザが楽しめ、和食コーナーでは俵屋の本格的な寿司や郷土料理が味わえる。

3つ目は、地方紙に親しむ環境の創出だ。カフェコーナーには全国各地の地方紙が置かれている。デーリー東北新聞社の石藤清悦さんは「地方紙は、全国ネットのニュースでは知ることのできない事実を伝えられる」と言う。あるひとつの問題が、各地でどのように報道されているのか。地方紙と親しむことで、日本の姿が見えてくる。「だから、若い人にもっと新聞を読んでほしい」と石藤さんは話した。

私たちは、ひとつの場所に住みながら遠い場所の情報を得られる。それは、ものや知識を発信する人々がいるからこそ可能なことだ。

情報があふれる都会にいると、発信する人々の存在と情報を送る理由を忘れがちにならないだろうか。遠く離れた八戸の地で、発信の意義を再認識させられた。
(新山桃花)