日本酒と聞いて、何を想像するか。今風ではないとか、おじいちゃんが飲んでいるお酒だとか、今の大学生はそのように連想するだろうか。あるいは、飲み会の席で勢いよく飲み干すものかもしれない。そんなあなたにぜひご覧いただきたい。北陸は石川、能登の地で大学生でも飲みやすいお酒造りを通じて、地域活性を図る熱意ある若者の姿を。

「N-project」は日本酒造りを通じて、能登の活性を目指す大学生たちが社会人と協力することで生まれたプロジェクトである。南部、越後、但馬と並び日本四大杜氏と称される、能登の酒造りに関する高い技術に今一度スポットを当て、能登の魅力を知ってもらうことが狙いだ。「他の県にも学生が醸造するお酒はあります。それらとの一番の違いは、米作りから学生の手で行われているという点です」。そう語ってくれたのは、「N-project」3期目代表、渡邊瑛勇さんだ。「純粋に日本酒が好きで、醸造に携わりたいという人ばかりがこのプロジェクトに関わっっているわけではありません。農業や地域活性、マーケティングやデザインなど、あらゆる分野に興味のある学生の集まる、包括的なプロジェクトです」。このように語る渡邊さん自身も、興味のある分野は地域活性だそうだ。お酒を造ることそのものが目標なのではなく、お酒とそれにかかわる文化を通じて、能登の魅力を発信することが目標なのだという。その証拠に、お酒造りのために栽培するお米は「五百万石」という酒造好適米の中では「山田錦」に次いで2番目に多く栽培される、能登の風土に適したお米だ。
 
若者向けにお酒を造るに当たって、参考にした蔵などはありますかと尋ねたところ、「自分たちにしか出せない魅力があると思うので、味の手本にした蔵はありません」と答えてくれた。また、若者の舌に合わせてスパークリングの日本酒も醸すが、人工的にガスを封入することなく、醸造の過程で自然に発生したガスを利用しているのだという。「若者向けのお酒として、若者に媚びることはできます。しかし、私たちが伝えたいのは伝統的で自然な日本酒の魅力です」。渡辺さんの目には、日本古来の文化の伝承者としての意地と誇りが感じられた。
 
地元の酒蔵数馬酒造と協力して醸したお酒「Chikuha N」の生酒を実際に飲んでみた。口当たりは非常にジューシーで生酒らしさが出ている。空気に触れさせると非常にまろやかな口当たりに変化し、華やかな香りと奥ゆかしい酸味を際立たせる。後を引かない余韻は、食事の風味を一層引き立たせることだろう。
 
「N-Project」の最新作は、学生が醸すお酒としては日本初のにごり酒なのだという。本数が非常に限られているため、首都圏で手に入ることはまずないが、能登を訪れた時にはぜひ探してみてはいかがだろうか。その風味の裏に、若者たちの能登にかける熱い想いを感じられるに違いない。
(上出恵大)