昨年11月29日、「第13回キャンパスベンチャーグランプリ東京」において商学部4年の高林稜さんが大賞とオーディエンス賞をダブル受賞した。当コンテストは学生を対象とした全国規模のビジネスコンテストである「キャンパスベンチャーグランプリ」の東京大会で、高林さんは全国大会へと駒を進めることになる。「超近代型コストハウスとマイクロバブル栽培装置のレンタル販売」の提案により栄光をつかんだ彼にこれまでの道のりと事業の概要を聞いた。

マイクロバブル栽培装置「大豊作ジェット」

マイクロバブルとは、特殊な装置を利用して生成される30マイクロメートルほどの微細な泡を指す。泡がマイナスの電荷を持つことでお互いに結合しにくく、その小ささゆえに液中での上昇速度も遅いという特徴を持つ。普段私たちが生活する中で目にする泡とは異なるこのマイクロバブルこそ、農業を変革するポテンシャルを持っている、と高林さんは力説する。彼が行った野菜の栽培実験によると、普通の水で育てた野菜とマイクロバブルを含ませた水で育てた野菜では、収穫量に20%ほどの差が出た。農薬や化学肥料に頼らずとも増産を達成できるというのである。

高林さんがマイクロバブルと出会ったのは地方にあるラン農家を訪問したときのことだ。そこでは他の農家に比べて色や形の良いランを栽培していることで知られている。その秘密について熱心に尋ねたところ、「使っている水が違う」と教えてくれた。それこそがマイクロバブルを含ませた水だったのである。

土木業を営むかたわら耕作放棄地の利用にも力を注ぐ父の姿を見て育ち、自身もベビーリーフを栽培する大熊園芸で農業のいろはを学んでいた高林さんにとって、これは大きな衝撃だった。「困っている農家を助けるための突破口になるかもしれない」。そう思って導入にどれくらいのコストがかかったのかさらに尋ねると、さらに驚く答えが返ってきた。非常に高価だったのである。

設備に投資できる潤沢な資金を持つ農家は富み、そうでない農家は苦しんでいる。そのことを実感していた彼は、なんとかしてこのマイクロバブル発生装置を低コスト化し、多くの農家に届けることができないか模索し始めた。技術のコアとなるソケット部分の開発には100回以上のトライアンドエラーを繰り返し、ついに「大豊作ジェット」の製品化に成功した。「大豊作ジェット」は酸素を送り込む空気ポンプと独自のマイクロバブル発生ソケットを組み合わせた製品であり、小型なので移動させやすく、設置に場所もとらない。価格も従来品の10分の1程度まで抑えた。

高林さんは「何よりもまず体験して効果を感じてほしい」との思いから、導入へのハードルが低いリースという形で商品を届けている。一定期間利用すると「大豊作ジェット」自体をそのまま進呈する継続特典まで付けた。利益の上がるやり方とは言い難いが、日本の農業に貢献するという志を達成するためにあえてこうしている。「個人的には『赤字にならなければいいかな』ぐらいの気持ちでいます」と彼は笑う。

超近代型コストハウス

高林さんがコンテストで発表したもう一つの製品は低コストのビニールハウスだ。一般的なものの半分ほどの値段で購入でき、設置に重機を必要としないほか、解体すると2トントラックで運べるほどのサイズになる。また、ハウスの梁に備え付けられたレールを使うと楽に収穫した農作物を運ぶことができる。従来のハウスとは大きく異なっている点だ。高林さんは先に挙げたマイクロバブルとこの新しいビニールハウスを組み合わせて、農業のパッケージ化を行うことを考えている。多くの初期投資を必要とすることから農業を始めることに足踏みをしている人へ、安価でハウスを提供する。「大豊作ジェット」を含む農具のリースを行うほか、販路まで用意することで参入への障壁を取り除くのだ。

自分でも農業を

提供する製品とサービスが効果的であることを証明するため、高林さんは自ら農家となる準備を進めている。会社を構える草加市の近くに2000平米の農場を借り受けてベビーリーフを栽培するのだ。これまでに学んだ方法をベースに自社の製品でアレンジを加えた、独自の農業スタイルで成功した最初の一人になることを目指す。多くの人が真似をしたくなるようなモデルを提示していくのだ。

農家が豊かになる未来を創るため。自らに農業の楽しさを教えてくれた亡き恩師への感謝を胸に彼の挑戦はまだまだ続いてゆく。
(田島健志)