職業としての大学教員

哲学を専攻とし慶大の非常勤講師を務める林晃紀氏は、「学部を卒業するときに民間企業に就職するつもりは全くなく、学問の世界で生きていこうと思っていた」と話す。実家が寺院であり、万が一挫折しても、生活に困ることはないという「恵まれた環境」にいたことが動機を下支えした。

慶大大学院在学中、指導教員からの紹介を通して現在の講師の職に就いた。「『この研究をできるは自分だけであり、やらなければ一生後悔する』といった気概がなければ学問を続けることは一般的に難しい」と語る。

論文の執筆や学会での発表などアカデミックな業績を積み上げなければ、仕事は回ってこない。研究に専念できるわけではなく、結果が認められるまで経済的に苦しい生活を送らなければならない。さらに、性急に成果を出すことが求められるため、そのプレッシャーにも耐える必要がある。

一方、このよう背景から、研究と授業の両立は難しいものだと捉えられることがあるが、「授業の準備と研究活動は同じもの」だという。論文で発表した内容や、現在研究しているものを授業で取り上げている。それを聞いた学生からの反応や指摘が研究に役立つことがある。

また、学生に教える際には、教室で話しているから聞いてもらえるような「哲学教員」ではなく、道端で話していても聞いてもらえるような「哲学者」を目指しているという。そのため、履修者が100人を越えるレポート課題に細かいコメントをつけて返却したり、学生とお茶を飲みに行ったりする。「どれだけ収入に繋がるかよりも、学生に何を与えられるかを大切にしている」

こうした取り組みの根底にあるのも「自分しかできる人はいないというヒロイズムの精神」だ。研究者として、教育者としても、この精神が林氏を支えている。
(小林良輔)