女の子のように華奢な身体に、色白できちんと手入れの行き届いた綺麗な肌。近頃”美容男子”や、りゅうちぇるのようなジェンダーレスタレントの活躍も目立つ。男らしいとは言えない彼らが若者たちに好かれるのにはどのような背景があるのだろうか。2‌0‌0‌6年に「草食男子」という言葉を生み、2‌0‌0‌9年に新語流行語大賞にてトップテンを受賞したコラムニストであり、淑徳大学客員教授の深澤真紀氏に話を聞いた。

深澤氏によれば、元来日本人は性に関して多様な価値観を持っていて、今で言う「男らしさ」だけに人気があったわけではないという。歌舞伎の女形の存在が古くからあるように、男性が美しく着飾り、化粧をすることなどに対して、日本人は抵抗の少ない民族であるといえる。また、かつてのクループサウンズやジャニーズのタレントなどの人気を考えると、中性的な美しい容姿は女性から好まれていることもわかる。

一方で一般人の男性が現在のように自分の容姿に気を遣うようになったのは時代的背景も大きい。

戦後、高度経済成長からバブル期まで、男性は交換可能化された労働力として四六時中働かされていた。皆同じようなスーツに身を包み、毎日会社へ(かつては戦争へ)向かう。その中で自己の容姿に目を向ける余裕などなかった。

しかし、経済が一段落したことで、男性にも自分について考える時間が生まれ、自己承認欲求として、髪型や自分の肌やファッションに気を遣うようになったのだ。

深澤氏が「草食男子」に込めた思いは、決してネガティブな意味などではない。それは本来、女をステータスのようにしか考えないような考え方が変化したことを指した言葉だった。「何人と付き合った」など、恋愛の中身ではなく、彼女がいないことは恥ずかしいことだと、女をアクセサリーのように考え、外側しか見ていなかった男が、いつしか、質を重視して恋愛をするようになっていた。きちんと好きになった人としか恋愛をしない。恋愛に疲れたときは休む勇気もある。周りの風潮に流されず、質を重視して物事を判断できる現代の男子を評して「草食男子」という言葉は生まれたのだ。

イケメンの多様化が指し示すのは、男女ともに働きやすい世の中であるとも言われている。男性が身体性を取り戻し、容姿に気を遣う余裕が生まれた。いい大学に進学すればいい会社に就職できるという神話が崩れ、将来が不透明になったからこそ、多様な選択肢がうまれ、人々が自己を顧みる時間を必要とするようになった。多様な価値が認められるようになった世の中で、男性ばかりが働かなくてもいいのでは、という考えも広まるようになるかもしれない。男性も、ジェンダーを乗り越えてそれぞれの美しさや生き方を手に入れる時代が既に始まっているのだ。

(山本理恵子)

【連載】学生文化研究所