慶應義塾大学医学部神経内科及び解剖学教室の研究グループ(鈴木則宏教授、相磯貞和教授、中原仁講師)は、多発性硬化症で脳髄の自己再生能力が低下する原因を特定することに、世界で初めて成功したと発表した。
 今回の研究では、多発性硬化症の脳で病変部位に髄鞘再生を妨げるTIP30分子が過剰に発現していることを特定し、その分子機序を解明した。今回の研究成果から本症の新たな髄鞘再生医療の開発が期待される。
 多発性硬化症とは、中枢神経系(脳・脊髄・視神経)の脳髄が脱髄する原因不明の神経難病で脱髄した部位に応じて様々な神経症状が生じる。多くは再発寛型と呼ばれる病型で、半年から1年に1回の頻度で新たな脱髄が起こる。
 患者は、20―30歳台の女性に多く、日本で約1・2万人、世界で約250万人が本症を患っている。原因不明のため根治的療薬は開発されておらず、再発頻度を減らす治療薬の開発が現在主流となっている。
 多発性硬化症では、傷ついた神経組織(髄鞘)の自然修復が乏しく重篤な後遺症が残る。だが、本症で髄鞘の自己再生能力が低い原因は明らかになっておらず、その解明は新たな治療薬開発の課題とされていた。