第700回三田演説会「福澤諭吉と資本主義―『実業論』以降の経済思想を中心として―」が先月3日、三田演説館で開催され、小室正紀慶大名誉教授が登壇した。

明治時代に入り、日本は資本主義体制へ移行したが、それに伴い貧富の格差や労働などの問題も生じていた。講演では、こうした資本主義の問題に対する福澤諭吉の思想を紹介した。

小室教授によると、明治30年、福澤は当時成立した工場法について、労働者の生活を一層苦しめ、「情愛の温かな日本独自の労使関係を損なう」との理由から反対していた。

しかし、明治初頭では「学問のすゝめ」において、近代社会理論を明確に展開し、封建制を批判している。その第8編では、「個人の自由独立」や「平等」が社会の基礎であると主張し、封建制は「人間交際を親子の間柄」のようにするものだと第11編で述べている。

福澤はかつて批判した封建制を再評価したのではない。明治30年、福澤は資本主義が展開してくるなかで、その影の部分を補完するものとして人々の「慈善心」に期待していた。工場法は、慈善心に基づく労働者への保護を断ち切り、資本主義の負の側面を助長するものだと福澤は捉えていたという。

小室教授は、福澤が「個人の自由独立」、「平等」、そして「慈善心」が近代社会の重要な要素だと考えていたことを指摘し、この思想は現代社会にも通じるものだと論じた。

三田演説会は、福澤諭吉らによって築き上げられた演説の伝統の継承と、幅広い分野において人々を啓蒙することを目的として始められ、今回記念すべき700回目を迎えた。原則として年に2回開催されている。