「芸術」と聞くと、何だか敷居が高いと感じる人も多いのではないだろうか。現代の若者と芸術の付き合い方について、国立新美術館の研究員である米田尚輝さんにお話を伺った。


美術館と大学生の接点

美術館の客層は、若者が必ずしも少ないわけではない。例えば6月1日まで開催している「ルーヴル美術館展」といった西洋美術の展覧会では、比較的年配の人や女性が多いが、現代美術やデザインの企画では若年層が増える。

「芸術」と呼ばれるもののジャンルの区別も、近年では曖昧になってきている。歴史ある絵画だけではなく、ゲームやファッション、建築などといった若者に身近な分野も、「芸術」と見なされる傾向がある。

芸術作品に触れることで何が得られるのか。芸術は人間が生きていくうえで必須ではないので、直接的な恩恵をもたらすことは稀だ。しかし、だからといって芸術作品と人間社会が無関係とも言い切れない。

芸術作品には人々の日常や感情、宗教、風刺などといった様々なテーマがある。気になった作品があると、それにまつわる歴史や社会事情などにも興味が湧いて、文脈を読もうとする。そうした作業が、感受性を養うことにもつながる。


国際化が進む現代美術

若者に比較的需要がある現代美術に焦点を当ててみると、国立新美術館では「アーティスト・ファイル」という企画をほとんど毎年行ってきた。国内外から現役で活動している作家を呼び、作品を展示するというものだ。いわば個展の集合体のような展示企画であり、国同士のつながりが大切な現代社会における芸術の一端を覗くことができる。

手塚愛子《確実性とエントロピー(Japan 2)》 2014年 作家蔵 写真:Gabriel Leung
手塚愛子《確実性とエントロピー(Japan 2)》
2014年 作家蔵 写真:Gabriel Leung

今年度の「アーティスト・ファイル 2015 隣の部屋―日本と韓国の作家たち」は、7月29日(水)から10月12日(月・祝)まで、国立新美術館(東京・六本木)企画展示室にて開催される予定。韓国国立現代美術館との共同企画だ。近年はアジアのアートも世界的に注目されており、国同士の交流も活発になってきた。今回は日韓国交正常化50周年の記念も兼ねて、両国で今まさに活躍するアーティスト達にスポットを当ててたものになっている。 


「本物」に触れる意義

作品なんてネットで検索すればすぐ見られる、と思う人もいるだろう。だが、それはもったいない考えだ。一般的に、芸術作品の最たる特徴は「世界に一つしかない」こと。この性質は、マンガやゲームといった他の娯楽と大きく異なる。

だから現物を見ることはスクリーン越しに作品を眺めるのとは訳が違う。実際に自分の眼で見つめることで、感じられることがある。

「そんなに構えず気軽に足を運んでほしい」と米田さんは語った。「ちょっと興味があるな」という気まぐれも立派な動機だ。思い立ったら、美術館に行ってみよう。
(玉谷大知)