災害現場での決断を再現 自分の信念を問われるワークショップ おらが大槌夢広場

あたり一面に殺伐とした景色が広がり、建物の基礎だけが残る。東日本大震災で深刻な被害を受けた岩手県上閉伊群大槌町。すべてを失ったこの町で、前を向いて立ち上がった人たちがいる。

一般社団法人「おらが大槌夢広場」は、大槌町の産業の発展と住民の生活再建を目指し、2011年11月11日に設立された。以来、地場産業やツーリズムの活性化、町民の起業独立の支援、企業研修など幅広い分野にわたって事業を行っている。


「自分ごと」として考えられるか

同団体が展開する事業の一つに、「クロスロード」がある。「クロスロード」は、震災当時に人々が決断を迫られた状況を疑似体験できるワークショップだ。「おらが大槌夢広場」代表の臼沢和行さん、ツーリズム事業・海外業務担当の神谷未生さんによる進行のもと、参加者は4人ずつの班に分かれ、与えられたお題に対し決断を下していく。お題はいずれも災害時に起こりうる、究極の意思決定が必要とされる場面を再現したものとなっている。

各班は一つのお題ごとにリーダーを選出する。リーダーには「大槌町長」といった役割が与えられ、二者択一のお題に対して最終決定権をもつ。他のメンバーはリーダーのサポート役として自分の意見を述べるが、決定権はない。最終的に、リーダーは選択肢のどちらを選ぶか決断を下さなければならない。

私がリーダーを務めた問題で印象に残ったものがある。「あなたは消防分団長です。あなたの消防班は災害現場に派遣されました。現場には今すぐ搬送すれば助かる母親と、搬送しても助かるかどうかわからない状態の子どもが発見されました。あなたの班が運べるのは一人だけです。あなたはどちらを助けますか」。

消防団とはプロの消防士ではなく、地域のボランティアの人々のことだ。当然、高度な救助技術などは持ち合わせていない。

リーダーも含め、班員は自分の選択とその理由を述べていく。私の班でも意見が割れた。「確実に助かりそうな母親を助けるべきだ」「しかし、私が母親なら子どもを行かせてやりたいと思う」「子どもの方を助けて、もし死んでしまったら無意味ではないか」といった意見が提出される。どれも間違いではない。

そこへ臼沢さんのコメントが入る。「皆さんは大槌町民です。想像してみてください、ここはせいぜい1万人そこらの町です。ほとんどが顔見知りです。その親子はあなたのご近所さんかもしれない、生き残った方に恨まれるかもしれない。それを受け止める覚悟がありますか。ここで皆さんにしていただきたいのは『判断』ではなく『決断』です。あなた自身が当事者です」。

一瞬、会場に緊張が走る。このワークショップでは、参加者はひとりの大槌町民であり、問題に対して「他人事」として無責任な判断を下すことはできない。小さな町では、自分の決定は皆に知れ渡る。それでも決断する気概はあるかが問われるのだ。実際の状況には遠く及ばないが、凄まじい緊迫感だったのを覚えている。


人の心を動かすのは「思い」

「クロスロード」の意義について神谷さんは「被災した現場だけでなく、今回のように正解を決めきれず意見が分かれる状況は家庭や会社でもよくあることだと思います。そのときに問われるのが、自分の思いを伝える力、相手の意見を聴く力なのではないでしょうか」と語る。

たとえば、企業でプロジェクトを進めるにはたくさんの人の協力が不可欠だが、全員の意見が一致することはあり得ない。そこで重要になってくるのが、メンバー間での「納得感』だという。自分は意見が違うからといって、全体で出した結論を無視するのではプロジェクトは進まない。ワークショップでも様々な価値観や意見がぶつかったが、最終的に相手を納得させられるのは人の「思い」なのだという。


被災の体験を「自分ごと」として捉える

被災地の現場では、正解のない難題が山のように存在する。それらに決断を下すには、自分自身の信念が何より問われる。「クロスロード」で登場する場面は、実際に被災地各地で発生したに違いない。そして、明日、我々も同じような状況に直面するかもしれない。震災の経験を「自分の問題」として捉え、自身や家族の人生を真剣に考えて初めて、本当の意味での「教訓」となるのではないだろうか。(和田啓佑)