【多事創論】これからの大学教育を考える 慶應義塾長 清家篤氏

【連載主旨】 多事「創」論
「自由の気風は唯(ただ)多事争論の間に在りて存するものと知る可し」「単一の説を守れば、其の説の性質は仮令(たと)ひ純精善良なるも、之れに由て決して自由の気を生ず可からず」。世の中は一つの考えでまかり通っている訳ではない。多様な意見こそが決められた道のない今の時代を生きる我々にヒントを与えてくれるはずだ。福澤諭吉が唱えた自由の気質になぞらえ、広く多くの意見を集めて現代社会の課題を考えていきたい。

 

慶應義塾 清家篤塾長
慶應義塾長 清家篤氏

変化と国際化の時代 現代に生きる建学の理念

大学の社会への貢献は学問によって人を育て、社会に叡智を与えることだ。慶應義塾は自分の頭で考え、国際的な視野でものを見ることができる人材を輩出したいと考えている。

今の社会の特徴はひとつには大きな変化の時代だということ。地球環境問題や少子高齢化など、我々が住む社会の持続可能性そのものが問われている。その問題がどうして起きているか仮説を作り、誰もが納得するように検証する。このような学問のプロセスが変化の時代を生き抜くためには不可欠である。

もうひとつは国際化の時代ということだ。今年、慶應はスーパーグローバル大学創成支援事業のトップ型13校のうちの一校に選ばれた。この事業は、世界レベルの研究を進め、国際化をけん引する大学を支援する目的で作られた。これを受けて、慶應ではスーパーグローバル事業本部を立ち上げた。年間4・2億円の助成金の配分を決め、全塾的に国際化を推し進めるための組織だ。

海外からの留学生はもちろん、慶應から海外に出る留学生も飛躍的に増やしたい。そのために、短期留学やサマースクールの予定が組みやすくなるよう4学期制が可能な学事日程も導入した。

また、海外から有力な教授を招へいするクロス・アポイントメント制の活用も進める。海外の大学と慶應両方の所属になってもらい、学生を指導してもらう形だ。英語のみで入学・卒業可能なコースを拡充するなど、国際的な教育プログラムも一層充実させる。

大学ランキングは、大学の状況を知るための指標のひとつとして注目すべきものだ。ランキングにとらわれ過ぎるのはよくないが、どのような基準でランク付けがされているかを仔細に分析することで、改善点を見つけることもできる。そういった意味では、有効な資料となる。

こうした大学の評価においてひとつの指標となる留学プログラムは、質の高さを維持しつつ、量的にも拡大していきたい。二校間だけでなく、延世大、香港大、慶大の3キャンパス合同の交換留学プログラムなどもある。学生には積極的に活用してほしい。

福澤先生の時代も大きな変化と国際化の時代だった。そのとき作られた、「学問によって人を育て、社会に叡智を与える」という建学の理念は、現在でも強みだ。

多様な入口の確保は必要 意欲と能力ある学生支援

慶應には以前から一般、推薦、塾内進学、AOなどさまざまな入試形態がある。大切なのは多様な入口があるということだ。現在それは十分確保できていると考えている。今議論されているセンター試験に代わる新しい入試制度も、各学部がひとつの入口として必要と判断すれば、取り入れる可能性もあるだろう。

また、最近では大学無償化が話題になっている。まず前提として、質の高い教育を行うには費用がかかる。たとえばハーバード大では、学部生約7000人に対し、一人あたり年間4万から6万ドルの授業料をとっている。日本の大学でそれはなかなか難しい。よって、無償化の前にまず、給付型奨学金を充実させることが大事だと考えている。慶應では給付型奨学金を多く用意しているが、さらに拡充することが、意欲と能力のある学生の助けになるだろう。

若者の内向き志向 塾生には当てはまらない

就職活動については、4年の夏から始まり、秋に終わるのが理想だ。そのため、今回の後ろ倒しは一歩前進で、大学としてはありがたい。大切なのは卒業時点で良い企業に就職することだけでなく、大学での学びを通して、卒業後の人生がより良いものになることだと考えている。

だから「学生の顧客満足」といった視点はとらない。塾生は人生の大切な後輩であり、教職員はその人生ができるだけ豊かになるよう教育や生活支援をしている。また半学半教の伝統に則り、塾生は一方的に教育を受けるだけではなく、互いに教え合い、高め合う教育の質を高める主体でもある。

近年の学生は、授業によく出席するなど、真面目でよく勉強するようになっていると感じる。世間では若者の内向き志向が叫ばれているが、塾生には当てはまらないだろう。例えば、文科省が主催する「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」でも多くの塾生が応募し、選ばれている。ベンチャー企業を立ち上げる塾生もいる。いろいろな形で新しいことにチャレンジしている塾生が多いのは頼もしい。

慶應としては、引き続き質の高い学生を惹きつけ、学問を通じて育てていきたい。また、スーパーグローバル大学に採択されたことを受け、国際化を推し進めることに注力していく。


【慶應義塾大学】
慶應義塾大学は、10の学部を擁する総合私立大学であり、日本を代表する私立大学の1つである。1858年(安政5)年に福澤諭吉が創始した蘭学塾をその源流とし、創塾以来の「独立自尊」「半学半教」という基本精神のもと、真理を究明しようとする「実学」の姿勢で教育に取り組む。

2008年には創立150周年を迎え、「創立150周年事業」を起こしさらなる発展を目指している。本年9月には文部科学省よりスーパーグローバル大学創成支援事業に採択されるなど、国際化が進む我が国において、期待される役割は大きい。「全社会の先導者」たらんとした福澤の意思を受け継ぎ、慶應義塾大学はさらなる進化を続ける。