慶應塾生新聞会 三田オフィス

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慶應義塾と戦争Ⅱ「残されたモノ、ことば、人々」展・太平洋戦争クリエイティブアーカイブス

来年、日本は終戦から70年を迎える。体験者からの生の声を聞き、記録として残そうとするプロジェクトが慶大では進められていることをご存知だろうか。今回、慶大生が関わる2つのプロジェクトに目を向けた。

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【慶應義塾と戦争Ⅱ 「残されたモノ、ことば、人々」展】
思いそれぞれに向き合う戦争の時代

今月7日から31日まで、『慶應義塾と戦争Ⅱ「残されたモノ、ことば、人々」展』が開かれている。これは慶應義塾福沢研究センターによる「慶應義塾と戦争」アーカイブ・プロジェクトの一環である。このプロジェクトでは、戦争の時代の慶應や塾生に関連した資料の収集、当事者への聞き取りなどが幅広く行われている。目的は、当時の慶應義塾の姿を明らかにし、ひいては日本における戦争の時代を理解することだ。

今回展示される品々は昨年夏から提供されたものである。プロジェクトの担当者にあたる都倉武之准教授は、「それぞれ固有の物語を持つ『モノ』に先入観なく対面することで、自分なりに戦争について考えてもらうことが趣旨」と話す。

展示品の一部には元塾長小泉信三氏の息子、小泉信吉氏にまつわる「モノ」もある。戦死する一週間前に家族に届いた最後の手紙もあれば、朝起こしてくれるよう家族に頼んだメモもある。彼も英霊であると同時に、私たちと何ら変わらない一人の学生であったという事実を実感させられる。

私自身もこのプロジェクトに携わっており、展示品を取り扱った。印象的なのは、戦時下での塾生生活の記録である。たとえば展示会のポスター写真は、日吉キャンパスでの何気ない一コマを切り取ったものだ。あるクラスアルバムには、クラス全員の写真に部活や趣味の繊細なイラストが加筆されている。微笑ましい一方、どこかはかなく、切なさがただよう。大学での日々を愛おしむ気持ちの裏側に、迫る戦争の影から日常を守ろうとする思いが見えるようだ。

また、戦争に巻き込まれた後の記述、特に遺書は誰しもの胸に迫るだろう。飛行学校などの訓練所では教官に対して反発することなど考えられないが、ある塾生は教官に提出するノートで激しい応酬をしている。誰もが我を失って盲従し過酷な訓練に苦しんでいた訳ではなく、人間的なやり取りが存在したことがわかって興味深い。遺書には、自分の生きた証を残したいという強い意志、誇り、覚悟、そして残される家族への気遣いが込められているのが伝わってくる。力強い文章だが、この世を去りがたいと思ったこともあっただろう。さまざまな思いを押し殺して書かれたはずだ。その感情を推し量るのも、戦争という事象と向き合う上で意義深いことなのではないだろうか。

来場者に話を聞いたところ、臨場感があって非常に良かったという感想をもらった。展示品の背景にはその主人とのエピソード、家族や友人とのエピソードなど、数々の出来事、記憶が存在する。また、どれも協力を得られた方々が長年大切に保管していた物である。そこには、当時から変わらない、彼ら一人一人の「残したい」という純粋な思いがある。それらが臨場感を生み出しているのだろう。

来年は戦後70周年を迎える。その前に、当時の塾生が残したモノ、ことばと自分なりに向き合ってみてはどうだろうか。(成田沙季)

【太平洋戦争クリエイティブアーカイブス】
戦争の記憶を芸術として残す

武笠さんが発表した作品
武笠さんが発表した作品

今年5月、「僕たちが戦争を生きた同級生に会いにいくためのアーカイブス」というワークショップが開かれた。70年前、学生たちは学徒出陣によって戦争に巻き込まれた。学生である今だからこそ、当時の学生の体験を知ることには意味がある。それをほかの人や後世の人々に伝えるにはどうしたらよいか。このイベントの主催者である土屋大輔さん(文4)は、芸術作品として残すことを決めた。

私たちが持つ戦争のイメージは、歴史の教科書や戦争を題材にした映画等から得られたものだろう。そこには戦争の悲惨さが描かれることが多かった。だが実際に体験者に話を聞いてみて、イメージの違いに気づいた。「戦時中にも、学生は遊んだり仲間と酒を飲んだりというような普通の日常があった。一人の人間が生きたということを伝えたい」

来年には戦後70年を迎え、体験者に話を聞く機会はますます貴重になる。このような状況で、体験者の思いを作品として残すため、「太平洋戦争クリエイティブアーカイブス」を立ち上げた。史実や資料といった客観的な視点からではなく、一人一人がどのような体験をし、何を感じたのか記録することに焦点をあてる。

「今、生きている人の体験を生きた形で残したい」。この思いを実現するために、土屋さんは対話の過程を大事にしている。聞き取り調査を通じて作品製作をするとき、戦争の非体験者が、体験者の記憶に侵入する。話を聞き、作品を制作してはまた話を聞くことを繰り返し、両者の心の中での変化や発見を作品に取り入れていける。それは体験者が記憶を思い出すための手がかりにもなる。

完成した作品を鑑賞する人たちとの間にも対話が生まれることを期待する。特に学生には「当時の同世代の戦争体験を知ることで、自らにある戦争への考え方と比べてほしい」と話す。

5月のイベントでは、絵画や小説など計4点を発表した。その作品の制作者の一人である武笠彩奈さん(文3)に話を聞いた。

「私たちにとって戦争は特別だが、当時の学生にとっては日常だった」。だから彼女が描いた絵に、戦争を直接描写するものはない。だが、その日常とは「明日大切な人が死んでしまうかもしれない」という日常だ。作中の人の顔が花になっているのは死を表す。それと同時に体験者から感じた「生きる力強さ」を影と根を重ねて描いた。「鑑賞者にはなぜこの絵が戦争を表すのかを考えてもらえたら嬉しい」

戦争の記憶を解釈し、芸術として残すことにさまざまな考えがあるのは事実だ。体験者の記憶を軽視しているのではないかという指摘もあるだろう。だが現在の学生が体験者から話を聞き、何かを感じとる機会は今しかない。このようにして生まれた芸術は戦争を後世に伝えるための一つの形だ。(長屋文太)