【多事創論】これからの大学教育を考える 筑波大学学長 永田恭介氏

【連載主旨】 多事「創」論
「自由の気風は唯(ただ)多事争論の間に在りて存するものと知る可し」「単一の説を守れば、其の説の性質は仮令(たと)ひ純精善良なるも、之れに由て決して自由の気を生ず可からず」。世の中は一つの考えでまかり通っている訳ではない。多様な意見こそが決められた道のない今の時代を生きる我々にヒントを与えてくれるはずだ。福澤諭吉が唱えた自由の気質になぞらえ、広く多くの意見を集めて現代社会の課題を考えていきたい。

***

筑波大学
筑波大学は1973年に東京教育大学を母体として発足した総合大学。あらゆる面で「開かれた大学」となることを目指し,固定観念に捉われない「柔軟な教育研究組織」と次代の求める「新しい大学の仕組み」を率先して実現することを基本理念としている。

~各大学の色を活かして変化に対応できる人材を~

入試改革は必然  大学の色にあった入試を

筑波大学は現状でも13種類のさまざまな入試方法を実施しており、常に入試改革が大切だという認識を持っている。

日本の大学は教育基本法の改正で、研究、教育に加えて、社会の発展に貢献をするという役割をもった。今、社会が求めているのは、学力に加えて変化に対応できる能力をもった人材。それに加えて、各大学のカリキュラムポリシー、ディプロマポリシーに合った人材をとりたいということになれば、入試改革は必然であるし、ポジティブに捉えている。

現在取り組んでいる入試改革の1つにインターナショナル・バカロレア(IB)対応入試がある。筑波大学でも今年から全学群でIB入試を実施するが、10年ほど前からIBの生徒を入れたいという話はしていた。

IBの仕組みは昔のリベラルアーツに極めて近く、知識の量は一般入試で入ってくる生徒より少ないと思うが、考えるというプロセスにこなれた生徒が多い。大学に入ってからの発展可能性が高い生徒をとりたいという各大学の思いがIB対応入試改革をトレンドにしている。

国際社会と同じカレンダーで世界との互換性の向上

筑波大学では2013年に3学期制から2学期制へ移行した。これは国際社会と同じカレンダーにしようということだ。

3学期制、2学期制両方の良さがわかった現在では、1つの学期を3つに分ける2学期6モジュール制を採用しており、4学期制にも対応できる。まだ少し定着度は悪いが、学生からは学外活動がしやすくなったと好評だ。留学生受け入れなどの調整もしやすくなった。今後、4学期制やほかのどのようなものでも、より良いものがあれば取り入れていく。

秋入学は他大学ともよく話し合ったが、積極的に進めていくべきだ。筑波大学には現在、短期も含めて留学生が約3000人おり、これは全学生の6分の1以上に相当する。教員1人あたりの留学生の数としては国内で最も多く、世界基準のカレンダーの方がカリキュラム編成に都合が良い。海外で学習するプログラムも多く、グローバル視点で考えたときに世界との互換性を高めていかなければならない。

「たかが」と「されど」 正しく評価できる指標を

政府は世界大学ランキングでの100位以内の数値目標を目指しているが、一言で言ってしまえば、「たかが」大学ランキング「されど」大学ランキングだ。

「たかが」というのは、大学にはそれぞれの固有の教育や研究の使命がある。一方で大学は社会からの要求も受けている。その期待が反映されているのが大学ランキングであり、それが「されど」の部分だ。

社会的に一定のレベルを示しているかという点では重要だが、順位だけに重きを置くのはどうだろうか。一定以上のレベルを示しているという前提の上で、個々の大学に得意不得意があるのだから、そこを反映した指標を自分たちで作れば良いのではないか。

例えば、今あるQSやTHEの指標では人文科学分野の能力はうまく測れていないが、それは日本の人文科学の論文は日本語で書かれることが多いからだ。決して日本の人文科学のレベルが低いということではない。むしろ問題はそこを評価する仕組みがないことで、ないのであれば作ろうというのが一つの方策ではないか。

学生は変わっていない 明確な問題意識の設定を

この職についてからもいろいろな大学生と話しているが、昔と若者の本質的なエネルギーや夢、希望というのは全く変わっていないと感じる。ただ、今の若者の弱点は科学技術の進歩や高い経済レベルの恩恵を受けて育ってきたこと。彼らの親の世代は地球規模の問題を解決する前に身の回りに改善するべき点がいくつもあり、課題が明確だった。今はグローバル化が進み、どこに力を向けていけばいいのかがわかりにくくなっている。若者たちがどこに問題意識を持つのか、そこにある程度の道筋をつけてあげるのが教員の役割だ。