[関東大学対抗戦 詳報]痛恨の帰結~蹴球部・帝京大学戦リポート

10/19(日) 秩父宮ラグビー場 (東京都港区)
14:00 Kick off △ 慶應義塾大学 5-5 帝京大学

夏、長野・菅平。あの日のリベンジマッチ

10/19。直近の3試合、取材対象が「関東大学ジュニア選手権リーグ戦」だった関係上、この日は約1ヵ月振りの秩父宮ラグビー場でのシニア(レギュラーメンバー)戦取材と相成った。

2008年度関東大学対抗戦。慶應義塾大学は初戦の日本体育大学戦(9/6)、19-24で惜敗。続く筑波大学との第2戦(9/23)、39-17の快勝で今季レギュラーシーズン初勝利を奪取。迎えた第3戦、慶應の今回の相手は帝京大学。秩父宮ラグビー場到着後、入場口で貰った両チームの先発メンバーが掲載された紙に早速目を通す――。

タイトルの「夏、長野・菅平。あの日のリベンジマッチ」。

慶應のラグビーを逐一追ってらっしゃる方なら、改めて言及せずともこのタイトルが何を言わんとしているか、わかっていただけるであろう。

そう、今年の夏合宿最中、長野・菅平のサニアパークで行われた帝京大学Aとの練習試合(8/19、●7-15)で味わった屈辱を果たす日がようやくやってきた、という意味である。

今季初の負け、といった単純なことを問うているのではない。先週のジュニア選手権リーグ戦の流通経済大学戦(10/13、○65-7)のリポート内でも述べたが、あの菅平での練習試合はセットプレー、特にラインアウトの部分が機能不全に陥った中での敗北であった。“FW勝負”という、相手のシンプル、かつリアリスティックな戦法に完全に飲み込まれた形での屈辱的な敗戦だったのだ。

この部分の精度を最大限上げるべく、慶應側もラインアウトを含めたセットプレーの安定に、この2ヵ月間腐心に腐心を重ねてきた。シニアの対抗戦でセットプレーの安定が見られたかと思えば、一転、ジュニアのリーグ戦で壊滅的な状況に…なんてこともしばしば。試合後に、林雅人監督とも「やはり、セットプレーの安定こそがラグビーの生命線ですね」と、改めて確認し合ったこともあった。

セットプレーに関して、慶應にあの日からの「上乗せ」、試合毎の着実なステップアップがあったのか。それが今回の試合で、白日の下に晒されると言っても過言ではない。両チームとも(スターティングメンバー・リザーブメンバーを合わせたら)ほぼあの日と同じメンバー構成。もう、言い訳はできない。

ただ、選手個人の「上乗せ」で言うなれば、例えばCTB増田慶介(環2)の存在は間違いなくそうだろう。自陣からの一切の躊躇なきラインブレイクは、あの試合慶應のバックスになかった破壊力をもたらすに違いない。ちなみに、今回は帝京の1年生SO森田佳寿に、「慶應一のラインブレイカー」(林雅人監督)である彼をぶつけていくという戦法を林監督は選択、加えて、故障明けのSO川本祐輝(総4)・FB和田拓(法2)の代理として、彼をプレースキッカーに指名した。このあたりの指揮官の采配、試合にどう影響するか。勿論、増田だけに目をとらわれてはいけない。

今回の帝京大学戦のスターティングメンバーの内、PR川村慎(法3)・CTB竹本竜太郎(環2)・FB和田拓は、帝京大学戦を前に試合感覚を失わないように、という林監督の意向もあってジュニアの試合に(川村はHOで9/28の明治大学B戦に、竹本はSOで10/5の早稲田大学B戦に、和田はFBで10/13の流通経済大学B戦に)出場した。特に川村と竹本は、レギュラー時とは異なるポジションでの出場ながら、共に及第点の働きを見せた。

今回はリザーブメンバーにも、今秋のジュニア選手権リーグ戦にコンスタントに出場することで、着実に力を付け、同時に多くの貴重な経験を積んできた猛者たちが揃っている。「今度こそは、リベンジできるのでは…」。淡い期待か?いや、そんなことはない。

SO川本祐輝の言葉が非常に心強い。
「相手(帝京大学)もFW戦に相当な自信を持っているみたいだけど…。別に相手にあわせる必要はないですしね。キックで相手を下げて陣地をしっかり取って、最後は走力で勝負という、自分たちのラグビーを貫いたら勝てるという自信もある」

林監督も先週、こう言って取材を締めくくった。
「帝京大学戦、慶應のラグビー、ボールを動かすラグビーで勝負しますよ」

果たして、賽は投げられた――。

「ランを仕掛ける」タイミング、その重要性

キック、キック、またキック…。永遠に続くかと思われる、キックの応酬。

前半開始直後から、お互いエリアを強く意識した攻防が続く。「互いに固くエリアをコントロールしていた」。試合を通じてキッキングゲームになるのは、想定の範囲内。だからこそ、どのタイミングでランを仕掛けるか、これが非常に肝要だった。試合後の指揮官の言葉には、この試合の大切なポイントが含まれている(野球で言えば「直球あっての変化球」といったところか)。

前半、圧倒的に敵陣で試合を進めながら、実際に慶應がランを仕掛け、それが奏功したのは前半36分のこと。

相手スクラムからの流れで奪ったボールを、CTB増田慶介が体勢を崩しながらも、右横を追走するCTB竹本竜太郎にオフロードパス。竹本は、パスを受けたら迷わず一直線、相手ディフェンスを巧みにかわしながら、ライン際を40mほど疾走し、見事なトライを決めた。

「風下の前半、相手も帝京という強力なチーム。そのような状況下で、5-0という前半は高く評価してよい」(林監督)。臨時のプレースキッカー・CTB増田慶介が、前半開始早々のペナルティゴール(PG)と竹本のトライ後のコンバージョンキックを共にゴールポストに当ててしまい結局外す、という不運こそあったものの、想定内のキッキングゲーム、慎重に慎重を期してのエリアマネージメント、安定したスクラム、そして機を見ての仕掛けと、概ね納得のいく前半だったということか。

「キッキングゲーム」の結末――

さて、風上に立った後半、ここからが「後半に強い慶應」、得意のキックゲームで敵陣にグイグイ攻め込むことを期待していたのだが…。

「後半風上に立ちながら、キックを有効に使えなかった。思うように敵陣に行けなくて…」(SO川本祐輝)
結果、試合が膠着した原因は、一体何処にあるのだろう?川本は「自分たちのミス」と見る。

「ハンドリングエラーが多すぎた。他にも、例えばあの(後半18分の帝京大学の)トライも、最後は自分たちのタックルミスによるもの。もし、相手のミスがもっと少なければ、かなり危ない試合でした。試合運びの拙さは、実力のない証拠。日吉に帰って練習です」
練習を重ねる中で、一層の状況判断力を身につけるしかない、と。

同時に、自身のキックの精度も、時間を追うごとに落ちていった、と試合後彼は語った。
事実、前節の筑波大学戦(9/23、○39-17)で川本は左足太腿前の筋肉に重傷を負い、2週間ほど練習できなかったそうだ。現在は「筑波戦の後しばらく休養を貰ったので、回復状態は良くてもう全快に近い状態」と語ってくれたが、やはりキックの感覚は若干鈍っていたのかもしれない。だが、このコーナーで何度も述べているように、今季林監督は川本を「モーションラグビー」の中心に据えている。彼の完全復活なしには、慶應の飛躍もありえない。ここは、川本の完全復活に期待しよう。

一方で、今回の対戦相手である帝京大学にも目を向けてみたいと思う。

岩出雅之・帝京大学監督が試合後「今季、初めて力が入ったゲームだった」と語ったように、今季の関東大学対抗戦、初戦の成蹊大学戦(9/28、○73-0)、続く日本体育大学戦(10/5、○64-3)と、開幕からソフトな相手に大勝続きの帝京大学だったが、骨のある敵とぶつかって手に汗握る攻防を続ける最中、言葉の本当の意味で「目が醒めた」ようである。

前半、緩慢なタックルの連続、エリアマネージメントの失敗等々で、予想外に自陣に

釘付けにされ苦しい思いをしたが、ここをなんとか被トライ1でしのぐと、後半は重さで勝る彼らの圧力が慶應のそれを上回り、1年生SO森田佳寿、FB船津光らの飛距離十分のキックを生かして、今度は逆に慶應を自陣に閉じ込めた。

注目すべきは、先述の通り、この試合CTB増田慶介と対峙した1年生SO森田佳寿。個人の駆け引きでは、増田に軍配が上がる(この試合、増田は難なくラインブレイクしていた)が、キックの威力は増田や、はたまた川本などと遜色ないレベルではなかったか。例えば、フリーキック時、彼の陣地を稼ぐキック→LOティモシー・ボンド、FLヘンドリック・ツイら外国人含め屈強なFW陣がラインアウトをしっかり確保、あとはフェーズを重ねて(トライ)と、このあたりのパターンは夏と比較しても一層磨きがかかった感がある。しかも森田はまだ1年生――。今後も、彼のキックには幾度となく悩まされそうである。

After Recording 取材を終えて・・・

キックの応酬、ゲームとしてなかなか落ち着かないだろう、夏の練習試合(8/19、●7-15)同様ロースコアもやむなし、と対戦前から思っていたので、5-5の結末にもさしたる驚きはない(慶應の2008年度関東大学対抗戦の自力優勝の可能性が早くも消滅したのは残念だが…)。

ただ試合後、慶應の選手・スタッフからは、やはりと言うか「勝ちきれなかった」という声が多く聞かれた。CTB増田慶介のプレースキックが3本中1本でも決まっていれば、後半残り僅かでのプレーがトライに結びついていたら云々。選手・スタッフも、もちろんわれわれ観客も「カタルシス」を存分に味わうことができたであろう。

増田は「勝てた相手だけに(キックを決めきれなかったのは)悔しい」、後半残り僅か、トライ寸前のプレーに絡んだFL松本大輝(環3)も「これが今の実力。対抗戦の残り明治大学、早稲田大学に連勝するためにも、一から出直してきます」と唇を噛んだ。夏の雪辱を果たせなかったと同時に、「昨季の対抗戦のターニングポイント」(林雅人監督)となった試合でもあり、その後の慶應の勢いを加速させた、宮城・仙台のユアテックスタジアムで行なわれた帝京大学戦(2007/10/28、○26-10)の再来とはいかなかった。

ロースコアのドロー。ここはテーマを「セットプレー(ラインアウト・スクラム)」に絞って、帝京大学との試合を振り返ってみようと思う。

まずは最大の懸案、ラインアウト。
先週のジュニア選手権リーグ戦の流通経済大学戦(10/13、○65-7)後、帝京大学戦を見据え、ジュニアの選手を交えて綿密にラインアウトの確認を行ったのは、前回のリポート内でも述べた。

結果や如何に――。「ラインアウト時のディフェンスの陣形を相手は弄(いじ)ってきた。裏をかかれた分、選手たちもアジャストするのに多少時間がかかりましたね」(林監督)。その後慶應も持ち直したがノットストレートのミスが3回、ハーフへのデリバリーミスも1・2度あって、思ったほどに落ち着かなかったというのが正しい見方か。ただ「サインの選択自体は良かった」と監督も語る通り、熱心な取り組みの成果は随所に出ている。

スクラムに関しては「前半は気持ちよく押せていたが、後半に入ると徐々に押し込まれてしまった」(林監督)。静止した状態で組むスクラムのようなプレーは、組み方を工夫するなどすればある程度相手に勝ることもできるが、どうしても最後は“力”のある方が優位に立つ。あとからあとから、ボディブローのように効いてくるのがスクラムというものだ。ちなみに関東大学対抗戦、慶應の次の対戦相手は、FW強者・明治大学(11/2、秩父宮ラグビー場)。例えばスクラムの際、今回以上の圧力がFW陣にかかることは、最早火を見るより明らかである。「相手(明治大学)はFW戦に拘ってくると思うんで、そこで絶対に負けないようにしたい」(FL松本大輝)。

明治大学戦は、セットプレーの安定は絶対、タックル・ブレイクダウンなどFWが接点で競り負けることなく踏ん張って、BKへの素早い展開に勝機を見出したい。明治大学も先日の試合で筑波大学にまさかの敗北(10/12、●14-28)、今回の「慶明戦」はそれこそ目の色を変えて慶應に襲い掛かってくるだろう。獰猛な「重戦車軍団」相手に決して怯むことなく、「ボールを動かす」自分たちのラグビーを貫徹できるか――。

決戦は2週間後。慶應の真価が問われる一戦となる。

(2008年10月22日更新)

写真・文 安藤 貴文
取材 湯浅 寛 安藤 貴文