【連載主旨】 多事「創」論
「自由の気風は唯(ただ)多事争論の間に在りて存するものと知る可し」「単一の説を守れば、其の説の性質は仮令(たと)ひ純精善良なるも、之れに由て決して自由の気を生ず可からず」。世の中は一つの考えでまかり通っている訳ではない。だが、多様な意見こそが決められた道のない今の時代を生きる我々にヒントを与えてくれるはずだ。福澤諭吉が唱えた自由の気質になぞらえ、広く多くの意見を集めて現代社会の課題を考えていきたい。

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大学から国際化を推進 「秋入学を諦めない」

学問は常に時代の一歩先に立ち、社会を先導するもの。未来を作っていく学生に過去のことだけを教えても意味がない。だから大学も次の時代を見据えていく。特に日本は経済面での成功体験がそれなりにあるため、グローバル化への対応が遅れがちだ。この流れに、大学がまず動き出さなければならない。秋入学制への全面移行も大学から社会への提案の一例だ。

秋入学の実施で、入学時期を国際標準に合わせることができれば学生の留学などがしやすくなる。だが入学時期をずらすためには社会全体を変える必要があり、特に医師国家試験、司法試験の時期をずらすことが難しかった。

また大学入学時期を9月にずらすことで生じるギャップタームの存在が賛否を呼んだ。東大は高校卒業後の半年間に、ボランティアや海外留学など自由に学生が使える時間を増やすことを提案した。一方で、この制度への反対者は18歳の学生が有効にこの時間を使えないことを懸念した。

しかし18歳に行動力や判断力がないと考えるのはおかしいのではないか。たとえば東大には入学後すぐに休学し、1年間海外でのボランティアやインターンが自由にできるFLYプログラムという制度がある。このように10代の学生が実際に自分の力で意義のある活動をしていけるという根拠を作り、社会の理解を求めたい。

東大では当分の間、再来年度から4学期制を採用し、留学時期の問題を解決していく。しかし秋入学の実施は諦めない。すぐの実施が難しくても、大学から社会に働きかけ、導入を目指す。今後も、世界を見て変えなければならない点は変えていくべき。その中で日本が何を大切にするのか考えなければならない。

 

入試制度改革、学力と意欲のバランスを

現状のテストにおけるコンマ一つでも上を行くための努力をする学生は評価に値する。その一方で、幅広い能力や意欲を評価することも必要だ。この2つの面のベストな割合を時代にあわせて考え、入試制度改革をどう作り上げるか課題だ。

東大では平成28年度から推薦入試を実施する。学力が受験勉強によるものだけでなく総合的なものであることを発信していく。

 

東京大学 濱田純一総長

社会とともに人材育成学生にタフさを求める

世界の知の頂点を目指して、英語での研究発信や国際的な研究ネットワークの整備を通し、研究水準を一層高めていく。教育の面では世界の中に学生を積極的に出していき、グローバルでタフな人材を育てる。

タフさとは、コミュニケーション力と粘り強さを持っていることだ。その力を養うためにはさまざまな人と付き合うことが大事である。コミュニケーション力を養うとともに、多様な人生や考え方を知る。それが一つの考え方にとらわれず物事に取り組む粘り強さにもつながる。

学生たちの幸せな人生の基礎を築くことと、社会的貢献をすることが大学の役割だ。そのためにも、産学連携による技術開発や、社会と協力しての人材育成を進めたい。


大学紹介
1877年に日本で最初の国立大学として東京大学は設立された。近年はグローバル化への対応に力を入れ、2011年には秋入学制度の検討を始めるなど、大学教育改革をリードしてきた。東大総長の濱田純一氏は「大学には社会を先導する役割がある」と述べ、改革を進める意向を示している。