三田キャンパス近くの万才湯
三田キャンパスからすぐ近く、慶應仲通り商店街に昔ながらの銭湯がある。万才湯―大正時代以前より続く老舗だ。

今は資料が残っておらず真偽は不明だが、一説によると福澤諭吉もその開業にかかわったという。慶應義塾にもゆかりが深い銭湯だ。

だが、この銭湯を利用する塾生は多くないだろう。学生にとって、銭湯という文化自体が馴染みの薄いもののようにも思われる。日本の銭湯文化と万才湯の今昔について話してもらったのは、万才湯の経営者の高橋元彰さん。高橋さんは日本銭湯文化協会の会長も務め、日本の銭湯文化の発展に尽力している。

万才湯は、三田キャンパスの近くに位置しているが、学生の利用は少ないと言う。「三田祭のときには普段より多くの学生が利用するが、それ以外のときにはあまり学生の姿は見られない」とのこと。

客層の中心は年配者で、夕方から多くの人が訪れるという。また、仕事帰りのサラリーマンや、ウォーキング後に利用する人も多い。

入口ののれんをくぐると、こぢんまりとしていて「昭和」の雰囲気を感じさせる空間が広がる。浴場も、昔ながらの銭湯のイメージそのもの。

壁に描かれた迫力のあるレインボーブリッジが印象的だ。三田のビルが立ち並ぶ中にあり、そこだけひと昔前に戻ったように感じさせる、どこか落ち着く場所だ。
レインボーブリッジのペンキ絵が目立つ

水質にもこだわっており、「粒子が細かく、保温効果が高いのが特徴」と説明する。肌触りがよく、皮膚疾患への効能もあるとのこと。

現在こうした昔ながらの公衆浴場は、港区内に6軒しか残っていない。軒数は戦後ピーク時の1割未満に減り、銭湯の利用者も減り続けてしまっているという。

だが最近は、この銭湯文化を見直す動きもある。入浴の健康への効果は大きく、日本国民の健康増進において銭湯は重要な役割を果たす。また銭湯は地域社会の交流の場としても必要不可欠となる。平成16年に「公衆浴場の確保のための特別措置に関する法律」が改正された。高橋さんも立法に関わったという。この改正で、国や地方自治体に公衆浴場の担う役割について再考するよう求めた。

協会では「銭湯検定」やスタンプラリーの実施やフリーペーパーの発行、銭湯施設に人を集めて落語や体操をするなど、日本の銭湯文化の復活のためにさまざまな働きかけをおこなっている。

「本来銭湯が担っていた、地域住民のコミュニケーションの場としての役割を復活させたい」と話す高橋さん。「地震などの災害発生時にも果たせる役割があるのではないか」とも語り、銭湯の可能性を強調する。

秋も深まり、すっかり冷え込んできたこの頃。今月26日は「いい(11)ふろ(26)の日」だ。せっかくだから学校帰りに少し寄り道して、銭湯に足を運んでみてはどうだろうか。そこには学校生活で疲れた心も身体も癒す、ほっと一息つける空間が待っている。(斉藤航)