10月12日 vs筑波大学 ○ 90―72

負けたら終わり。

前日の試合後のインタビューで、キャプテンの#4鈴木(4年・仙台二)は「早慶戦の時、あるいはそれ以上に緊張した」と話していたが、それは心の中にその「負けたら終わり」というプレッシャーがあったからだろう。前日の試合は、結局4点差の勝利。なんとか踏みとどまったが、内容は悪く、とても翌日、つまりこの日の試合につながりそうな展開ではなかった。

試合は予想通り序盤から接戦となる。開始5分こそ筑波大が積極的に仕掛けてリードを広げるが、慶大はタイムアウト後に2本の3Pシュートが決まり、#10小林(3年・福岡大附大濠)のバスケットカウントですかさず点差を縮める。ただ、ゲームのカギを握るリバウンドはこの日も筑波大が支配。慶大としては、筑波大インサイドの大黒柱である#32木村や司令塔#13片峯のファールトラブルに付け込みたかったが、前日同様の一進一退の攻防が続く。結局前半終わって41―38と慶大が3点をリード。前日同様、緊張した空気が支配する中、ゲームは運命の後半へ突入する。

しかし、負けられない慶大を待っていたのは、あまりにもあっけない結末だった。

リバウンドを修正、速攻を連発し圧倒。

3Q開始後、筑波大は#47富田が決めて慶大に対するビハインドを1点に縮めた。しかし、慶大は#16二ノ宮のアシストから#7岩下が決めると#12田上も続いて点差を5点とする。慶大のオフェンスは休まず、さらに#16二ノ宮、#10小林とまんべんなく得点を重ね、3Q4分には49―42、7点のリードとなった。筑波大はたまらずにタイムアウトを請求するが、プレーに戻った直後に#32木村が3つ目のファールをコールされ苦しくなる。#7岩下に決められた後、#45鹿野の3Pなどで慶大を追いかけるが、その流れを断ち切るように慶大は#16二ノ宮が3Pを決め返すと、堰を切ったかのようにドライブを連発。3Q8分、筑波大が2つ目のタイムアウトを取った時には12点もの差が開いていた。

「本当にリバウンドですね。リバウンドが取れて速い展開が出来て、慶應らしいプレーが出たと思います。そこが、点が離れた要因かと思います」(#16二ノ宮)

「前半はリバウンドで負けてるんです。だからハーフタイムに確認したのはボックスアウトからリバウンドをちゃんとやろうよ、と。それをきっちりやらないと抜け出せない。それが4Qで効いたのかな。(#15酒井)祐典が大分、相手のキャプテン(#31梁川)にプレッシャーかけてたけど、そこら辺も多分影響したんだと思う」(佐々木HC)

後半に流れを掴んだ理由。それは間違いなくリバウンドだった。前半は前日同様にボックスアウトがままならず、ディフェンスリバウンドもキープできない場面があったが、慶大はそれを修正した。体格差で劣る中、必死でボールを保持して味方へ出し、ブレークを量産する。「リバウンドからの速攻」という本来の慶大のスタイルが連続し、流れを引き寄せたのだ。この試合のチーム合計のリバウンド数は41本(筑波大は31本)、アシストは19本(同9本)。「スタイル」が存分に発揮されたのが、この数字からも分かる。

タイムアウトが明け、筑波大はここから立て直したいが#5中務がルーズボール争いでやや不運な笛を吹かれ、またもや流れを引き寄せられない。しまいにはオフェンスリバウンドはもちろんディフェンスリバウンドすら取れず、幾度と無くバックコートに釘付けとなってしまった。

とどめとなったのは、71―61の慶大10点リードで迎えた4Q5分からの攻防。慶大はボールをスピーディに展開し、#15酒井、#16二ノ宮の3Pが連続して決まる。筑波大は#45鹿野が決めるが、慶大は直後に#4鈴木が勝負を決定付けるバスケットカウントを決め返した。ボーナススローもしっかりと決めて、80―63とした。

指揮官の確信――「はっきり言って、筑波には負けない」

前日の試合前まで1敗の筑波大は、リバウンドに課題を残して明大に連敗した慶大にとっては嫌な相手だった。インサイド陣は控えも含めて豊富。おまけに慶大の選手の中で、唯一リバウンドで有利になりそうな高さのある岩下は、足の状態が思わしくなかった。前日は結果として慶大が勝ったものの、リバウンドは完敗。この日も前半は相手にインサイドを支配されていた。それが、後半になると一変。慶大がペイントエリアを掌握し始めると、それが一気に点差に表れた。慶大が後半にかけて良くなったとも言える。しかし、それだけでなく筑波大の集中力が切れ始めていた。

実は、佐々木HCは今年春、筑波大について次のようにコメントしている。

「はっきり言って、筑波には負けない、という自信は、実は持っています。それは私達と彼達(筑波大)のバスケット観の違いがあって、ああいうバスケットはもっといい選手を集めないと勝てない。速攻で数的優位になっているのにスローダウンしているでしょう?ああいうバスケットだと絶対に勝率は悪くなる。勝負だからやってみないと分かりません。でも、10回やったら7回は勝てるね。いつやっても。そういう考えを持ってます。それだけバスケット観に差があります。やり方、練習の方法を含めて。秋は一発勝負だから分からないけど、そう負けるとは思っていません。もちろん向こうは4年生が多いからそういう点は分かっていますし、今日(94―70で勝利)みたいに上手くいかないと思ってますけど、接戦になっても持ち堪えるだけのバスケットは出来ると思います」(トーナメント3位決定戦・筑波大戦後)

「筑波は時々選手が自己主張しちゃうんです。その自己主張を吸収するだけのベンチの力(コーチングの力)は無い。だから、何かあったときに僕は壊れると思ってるんです。秋まで今のチーム力が持続するとは思えない」(新人戦全日程終了後・筑波大は3位)

指揮官には対戦の前から確信があったのだ。
前週対戦した明大と慶大との間には、シュート力やリバウンド力を含めた選手の個々の能力に加え、チームとしての力にも明確な差があった。しかし、それと同じように慶大と筑波大との間にも差があった。ただ明大と慶大との間にあった、個々の能力では差は無い。チーム力、その一点だ。それでも明大と慶大とのそれと同様に、慶大と筑波大のチーム力にもまた、明確な差があった。佐々木HCはこの日のインタビューで「うちの連中は良い意味でも悪い意味でも、私がギャーギャー言うことに結構聞いてくれるんですよ。ところが、筑波の方はそうじゃない。その辺のチーム力というか(そのあたりで差が出たと思う)。こっちは運動能力は低いけど、『これをやるよ』って言った時にまとまってくれるんです。筑波は上手なやつが結構いるもんだから、『おれはこう思う』ってなってしまう」と話したが、ある意味、皮肉な言い方をすれば、個人能力で筑波大が慶大を上回ったことが、慶大の連勝に繋がった。

勝負は試合終了のブザー前に決まった。筑波大が試合時間残り2分で主力5人を下げ、メンバーを全て入れ替えたのだ。これには慶大サイドもあっけにとられたような表情を見せたが、事実上の筑波大の「白旗」である。そして、佐々木HCの計算通りの筑波大の自滅だった。

「もう諦めてたんじゃないですか。でも、何を考えてるか分からないですけど、どういう意図があったのか。してはいけないことじゃないかな、と思って。いくら点差が離れてもチャンスがあるうちは、スターターにやらせるべきだし、スターターの責任だし。あの瞬間勝ったなと思ったし、ああいうことをしているチームには勝てるなと思いました」(鈴木)

 最終スコアは90―72。前半の接戦がまるで嘘のような、18点差の完勝劇だった。それも、タイトなディフェンス、コート上の選手全員でのリバウンド、速攻と、やりたいことが全て出来た、このリーグ戦最高の内容だった。

入れ替え戦進出決定。ライバルを叩き、勢いを加速させろ。

「いろいろ星勘定をしてみても、それは来週早稲田に2勝しないと始まらないので、しっかりこの1週間頑張って、調整していきたいと思います」(#15酒井)

「筑波に連勝してちょっとほっとしてるんですけど、あと2試合残っているので。それに向けてすぐに気持ちが整ったっていうか、頑張ろうと思いました。早稲田との試合も全力でやるだけです。是非チームでまとまって、しっかり入れ替え戦にもつなげて、1部昇格出来るように頑張りたいです」(#16二ノ宮)

「早稲田はライバルですし、侮れないのでまた今週引き締めて練習して。まだまだ一息するのは早いかなと思います」(#10小林)

筑波大に連勝したことで、入れ替え戦進出の可能性は大いに広がった。この記事で、この日のコメントとして掲載しているのは筑波大戦直後のものである。ところがインタビュー中に行われていた早大と明大の試合で明大が敗れた。2敗を守った慶大は意外な形で2位以上を確定させた。

しかし、鈴木はインタビューで次のようにコメントしている。

「とりあえず、来週は2勝していくつもりで。(この明大が試合している時点では)明大の結果待ちなんですけど、出来れば1位でいきたいなとは思ってます。そういう風に1週間言い聞かせて、必ず2勝とりにいくっていう風にしていきたいなと思いました」

幸いな点ではあるが、明大が早大に負けたことで慶大は第6週を終えて単独首位に浮上。次週に早大に連勝すれば自力での1位が可能だ。しかし鈴木のコメントを聞く限り、単独首位に浮上し、入れ替え戦進出が確定しても、その気持ちにぶれはないだろう。

リーグ戦を締めくくる相手は、宿命のライバル早大。#11井出や#21山田を相次いで負傷で欠き、一時は3部A上位チームとの入れ替え戦もよぎったが、上位争いを演じる明大相手に大きな5勝目を挙げたことで、2部残留が決定し、勢いがある。現在5位の早大としては最終週の2試合を臨むにあたり、現在の順位を保ってインカレ出場権を手にしたいというモチベーションもある。
そして何より、2部とは言えど早慶戦。それぞれの思惑はあっても、お互いにとって星勘定などの思惑は度外視した決して負けられない戦いになる。この日の内容を貫徹してライバル連勝すること。そうすれば、入れ替え戦に勢いを持って臨むことが出来る。

勢いを付けて、ひたすら突っ走るのみだ。

(2008年10月13日更新)

文、写真・羽原隆森
取材・羽原隆森、阪本梨紗子、金武幸宏