流れを決めた二ノ宮の「ファール」。

勝負が決したのは4Q残り4分のプレーだった。明大#14金丸晃から#16二ノ宮(2年・京北)がスティール狙う。#16二ノ宮のチェックで#14金丸晃はボールをファンブル。ここで笛が鳴った。二ノ宮のファールの判定だった。

「あれは自分的にファールだと思ったので。吹かれても仕方ないかなと思いました」(二ノ宮)

取り立てて挙げるべき事柄では無いかもしれない。しかし、この試合(というより毎試合のことではあるが)では不可解な笛が続いていた。二ノ宮本人は納得だったようだが、コールの直後には慶大ベンチや応援席から「えーっ!?」と声が上がった。

慶大の追い上げムードが加速していた。9点ビハインドからまず#12田上(3年・筑紫丘)がフリースローの1本目を決める。2本目は外すがリバウンドを#15酒井(2年・福岡大附大濠)が掴むと#10小林(3年・福岡大附大濠)がジャンプシュートを決める。#10小林は直後にフリースローを得て2本とも決めると、今度は#16二ノ宮が決める。#21川崎に3Pシュートを決められたが、#7岩下(2年・芝)もフリースローを2本決めて3点差とした。問題のプレーはこの直後に起きた。

「ああいう笛に弱いよね。それで向こうに運が行っちゃう。弱いからそうなるんです。自分達のシュートとかリバウンドをしっかり取っていれば、笛も正常に戻るはずなんだけど、それを戻しきれるだけの(シュートやリバウンドの)確実性、正確性が無い。そうするとどうしてもああいう笛になっちゃうね」(佐々木HC)

先の二ノ宮のコメントを聞くと、コート上ではファールを意外と冷静に受け止められていたのかもしれない。それに、笛が全て慶大不利に働いたわけではない。明大に不利に働いたこともあった。だが、鈴木が「前半含めて3回くらいあったポイントでリード出来なかったというか、そこでミスがあったり、シュートを決めきれなくて次の明治のオフェンスでやられちゃうといった感じで。ポイントでうちが主導権を握っていればもう少し違った展開になったのかな」と話すように、そのポイントで慶大は一気に流れを掴むことが出来なかった。ティップオフから試合終了のブザーまで、バスケットの試合は40分の時間内で行われる。接戦になればなる程、終盤でのディテールの部分(つまり細かいプレー)で勝負が決する。この日の慶大は、ポイントで流れを掴めず、選手にはフラストレーションが溜まっていたように思う。言わば、自分で自分の首を絞めたのだ。

結局、このプレーで一気に流れが明大に傾いた。#21川崎がバスケットカウント、ボーナススローも決める。この後#21川崎は計4本のフリースローを1本しか決められずに嫌な空気が流れ、慶大は#15酒井が決める。だが、その#15酒井がファール。#14金丸晃が#21川崎の失敗の流れを断ち切るかのようにフリースローを2本とも決め、#24岩澤のシュートで9点差となった。慶大はややファールゲーム気味にフルコートでプレスを仕掛けるが、噛み合わない。ずるずると点差が離れ、時間は減っていくばかりだった。

不利と見た明大が、全てにおいて慶大を凌駕した。

慶大サイドから見ていると、慶大の脆さが表れた試合。しかし、その脆さが抑制されていたとしても、果たして勝てただろうか。

前日行われた慶大との1戦目の終了間際、明大はポイントガードでキャプテンを務める#6伊與田が負傷退場。この日の2戦目を欠場した。「バスケットはガードが肝心」と言われるが、絶対的な司令塔の不在で2戦目は明大が不利になるはずだった。
しかし、試合は互角の展開となる。それも、僅かな差ながら多くの時間で明大がリードを保った。そして、慶大のオフェンスが活発になってきても耐えに耐え、ほんのディテールのプレーをきっかけに最後の流れを掴んだのだ。先に触れた#16二ノ宮のファール後、必死に点差を詰めようとする慶大へのディフェンスは、オフェンス以上に見事だった。

慶大とともに6連勝したリーグ序盤、明大の試合内容はほとんど完璧だった。#6伊與田や#14金丸晃も活躍するが、控えメンバーもそれに遜色ない活躍を見せる。3週目が終わった時、慶大・佐々木HCは「(塚本HCは)一人ひとりに相当目配りしてるんですよね。ああいう試合(71点差で順天堂大に勝利)でも金丸晃を最後まで使って、こうしろ、ああしろ、とか細かく指示している。ガードも相手にプレッシャーをかけられて汚いファールをされてもイラついているところですぐ呼んでケアする。個人個人の手当てを相当してるので、そういう意味で言うと力はあるんだよね。相当な強敵かな」と言っていた。果たして、結果は2試合とも明大の快勝だった。

「あれ(ベンチメンバーの頑張り)が持ち味で、それをリーグ戦が始まってからの4週間で作ってきたんで。国士舘の時はダメだったですけど、それで今週かなりミーティングをやって。自分自身が強くないとバスケットは行えないんで、その部分を(修正しました)。慶應さんはディフェンスが良いしプレスもかけてくるので、選手はびくびくしてたと思います。(#19)田村は国士舘との試合でスローインでの5秒バイオレーションのターンオーバーをして、やられてしまった。でも、それ(弱気になりそうな部分)を出さないでやれたのが、国士舘の時とは違いましたね」(塚本HC、1戦目を終えて)

この2戦、明大の2勝の大きな要因となったのは#14金丸晃や#21川崎の活躍だった。しかし、ファールトラブルや#6伊與田の不在を、#19田村や#24岩澤らがそつなく繋いだ。その「繋ぎ」あっての主力の活躍である。格下相手のゲームでも気持ちを切らせることなく選手を起用した塚本HCの指導力がモノを言った。
選手個々の実力、つまりリバウンド力やシュート力は言うまでも無く、流れの掴み方、指導者のコーチング……。明大はその全てで慶大を上回っていたと思う。両者の間には、簡単には覆すことの出来ない、言わば絶望的なまでの「差」があった。ある意味、序盤6戦の段階でこの勝負は決していたのかもしれない。直前の国士舘大との対戦での明大と慶大の状況比較は、意味を成さなかった。私にとっては第4週の記事における自分の浅はかな予想が甘すぎたことを、ただ素直に反省するばかりである。

追い込まれた状況で、明大に学べるか。

これで、慶大は2敗。順位は、首位から入れ替え戦進出圏外の3位に転落した。自力で2位以内に滑り込むには、残り試合を全勝するしかない。相手は筑波大と早大。簡単なことではない。

「今までやってきた練習をもう一回、この1週間で繰り返す。あと今日も試合中に選手に言ったんだけど、ボックスアウトが出来なくて試合中に取られてる。全部頭を越されてる。それは最悪と言ってるのに。ロングシュートはロングリバウンドになるんだから。だからきちっとボディコンタクトをして、悪くても自分の目の前に落とさないと。それをもう一回やり直しだね。この先の1週間で、明治が2敗から立て直したように、我々も立て直していきます」(佐々木HC)

「(筑波大との試合は)ディフェンス、リバウンドも課題ですが、プラスしてオフェンスも頑張っていければと思います。噛み合わないところもあったので。あとは個人個人のシュート力、今日は大分シュートが落ちたのでそういうところも修正して行けたらなと思います」(#4鈴木)

「明治も国士舘に2敗して、崖っぷちから僕らに2勝しているので、僕らも明治を見習ってというか、負けないように。今回2敗しましたけど残りの試合は全勝でなんとか入れ替え戦に進みたいと思ってます。今週の練習次第で決まるので、一から切り替えて頑張りたいです」(#10小林)

明大は確かに強かった。しかし、ただ振り返るだけでは仕方が無い。明大との対戦はもう取り返すことは出来ない。
だからこそ、開き直ることが出来るか。それが出来たから、明大は連勝出来たのだ。「国士舘に負けて、結構みんな落ち込んだんですけど、逆に失うものが無くなって。チャレンジャーでやろうっていう気持ちをみんなで意思統一した」とは前日の試合を終えての明大#3金丸英のコメント。慶大に、今まさに求められていることだ。

(2008年10月8日更新)

文、写真・羽原隆森
取材・羽原隆森、阪本梨紗子、有賀真吾、内田雄輔、金武幸宏