中国との領土問題、「解決」のかぎとは

文学部教授 山本英史氏 1950年滋賀県生まれ。慶大文学部卒業後、東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。山口大学人文学部助教授、慶大文学部助教授を経て、1996年4月より慶大文学部教授。専攻は明清社会経済史、中国近代史。主な著作に、『清代中国の地域支配』(2007年、慶應義塾大学出版会)、『中国の歴史』(2010年、河出書房新社)、『近代中国の地域像』(編著、2011年、山川出版社)などがある。

 近隣諸国との領土問題が白熱化する中、私たち学生はこの問題をどのように受け止めるべきか。尖閣諸島をめぐる中国との領土問題について慶大文学部東洋史学専攻、山本英史教授にお話を伺った。

 国家という概念が存在しなかった時代は国境がなく、領土の意識もあいまいだった。近代の国家形成はまず他国との国境を画定して領地の排他的領有権を主張することで始まった。そしてそのことから紛争が生じ、これまで戦争がその問題を「解決」してきた。現在日中は領土問題でもめているが、山本教授は「戦争抜きで領土問題が決着されたことは歴史上ほとんどない」と話す。

 「領土問題はいわば子供同士が一つしかないおもちゃを取り合って喧嘩するようなもので、その解決のためにはそれを取り上げるか、仲良く使うよう命じるしかない」と語る山本教授。取り上げられるくらいなら仲良く遊んだほうが賢明な選択というものだ。

 山本教授は、尖閣諸島は本来国境を越えた人々の生活の場であったとした上で、「領土問題を解決する唯一の方法は領有権の主張を永遠に棚上げにすることに尽きる。それが互いの国益にもかなっている」と述べる。

 私たちがよりよく中国を知るための方法も教えていただいた。第一に、マスコミの報道に惑わされないことだ。解説者がわかりやすく説明する最近のニュースは複雑な問題を一面化してしまう。「マスコミは一つの主張だけでなく、反対意見も併せて紹介し、どちらが正しいかの判断を視聴者に委ねるべきだ。そして視聴者もまた判断能力を鍛えなければならない」と山本教授は報道のあり方や受け取る側の姿勢についても語る。

 反日デモ報道では、その映像だけが繰り返し放映されるため、中国の人々がすべて怒っているように見える。だが彼らのなかには、領土問題に対するこのようなあり方に批判的な人々も少なからず存在する。さらに、若者の間ではアニメやファッションへの関心から日本にむしろ親近感が増している。日本ではこれらのことが案外知られていない。

 また、中国政府が国内批判をそらすために反日活動を煽っているとの報道もあるが、そうとも言えない。というのは、中国には「影射」と呼ばれるやり方が伝統的にある。影という一見別のものを射ることで、実は本体を攻撃するのだ。反日デモでは国民が日本という影を攻撃することで同時に自分が批判される恐れがあるため、中国政府はむしろそれが広がることを望んでいないとの見方もできる。

 最後に山本教授は「中国では国家と人民は必ずしも一体ではない。物事にはいろいろな側面があることを意識しなければならない」と述べ、中国の人々にじかに接することの重要性も強調した。

 中国の領土問題を理解するには国際関係だけでなく多様な実態を知ることが大事になりそうだ。
       (長屋文太)


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