クァルテット・エクセルシオの4人。左から西野ゆかさん(第一ヴァイオリン)、山田百子さん(第二ヴァイオリン)、大友肇さん(チェロ)、吉田由紀子さん(ヴィオラ)
クァルテット・エクセルシオの4人。左から西野ゆかさん(第一ヴァイオリン)、山田百子さん(第二ヴァイオリン)、大友肇さん(チェロ)、吉田有紀子さん(ヴィオラ)

先月10日、日本を代表するプロ弦楽四重奏団クァルテット・エクセルシオを招いた慶應キャンパスコンサートが日吉・協生館藤原洋記念館で行われた。

コンサートは課外授業を通してテーマに沿った内容を学ぶ、慶大のプロジェクト実験授業である「構造的聴取」の締めくくりとして開催された。音楽を「聞く」だけでなく、楽曲の背景、構造を意識して能動的に「聴く」ということを学んだ学生らが受付や設営に関わる。楽曲説明やコンサートのプレトークも学生の手による。運営側学生からのクァルテット・エクセルシオの演奏家の皆さんへのインタビューも行われた。

曲目はモーツァルトの弦楽四重奏曲第19番「不協和音」、大澤壽人の弦楽四重奏曲(1933、ボストン)、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第7番「ラズモフスキー第1番」。迫力と伸びやかさを併せもつ演奏に客席からはアンコールが終わっても拍手は尽きなかった。

今回の注目曲として挙げられるのは戦前から戦後にかけて活躍した昭和の作曲家、大澤壽人(1903ー1956)の楽曲。戦後の映画音楽や舞台音楽では名をはせていた。しかし、彼の初期の楽曲は日中戦争から始まる十五年戦争を挟み、また彼の期待するほどの評価を得なかったため長くの間忘れ去られていた。しかし、近年慶大片山杜秀准教授らにより初期の楽譜が発見されてから再評価の動きが広まっている。

彼が当時欧米へ留学したことで体得した高度な音楽センスは当時の日本人には理解されづらく、思ったほどの評価は得られなかったという。正式な記録が見当たらないため、この楽曲は本演奏会で初演奏とも言われる。新譜を演奏する大変さ、また普段の活動についてクァルテット・エクセルシオの西野ゆかさん、山田百子さん、吉田有紀子さん、大友肇さんにお話を伺った。

クァルテット・エクセルシオは日本で数少ない常設の弦楽四重奏団で、慶大で演奏するのは今回で3回目。普段は定期演奏会の他に地域に一定期間滞在し、学校、ホールなどを回り演奏活動をする。「すごく身近で、楽器をこする様子を感じてもらえたら」と山田さん(第2ヴァイオリン)は話す。時には客席の椅子なしに直で座ることで音の響きを感じてもらうこともあるという。

曲目にも含まれているベートーヴェンについては「音楽家にとって憧れの存在」と大友さん(チェロ)は話し、「演奏された楽曲ではベートーヴェンで連想されがちな暗い肖像画、楽曲とはうって変わって、辛い人生にも明るい光があることを楽曲の中で表現している」ことを語った。

初演である大澤壽人の曲を演奏するにあたり、譜面の誤りなどに関するデータや、以前に演奏したときの音源もない苦労の中、解釈を団員の4人で話し合って解決したという。「こちらの解釈が演奏の個性となってでると思う」と西野さん(第1ヴァイオリン)は話した。