慶大文学部と久保田万太郎記念基金が主催するシンポジウム「久保田万太郎と現代」が、12月16日(土)に三田キャンパス北館ホールで行われる。今年は万太郎の没後60年にあたり、10月には『久保田万太郎と現代―ノスタルジーを超えて』(平凡社)が出版。先月28日からは、三田メディアセンター1階展示室で「久保田万太郎―時代を惜しみ、時代に愛された文人」展が開催中だ。

一連の企画を行っている『三田文學』編集長の関根謙先生、文学部教授の小平麻衣子先生、シンポジウムの朗読公演を企画している五十嵐幸輝さん(文4)に話を聞いた。

 

左から小平先生、関根先生、五十嵐さん。『三田文學』編集部にて

 

死後も慶應に尽くした文学者万太郎

 

久保田万太郎(1889-1963)は慶大文科(現文学部)出身で、戦前から戦中、戦後にわたって活躍した文学者。俳句が最もよく知られるが、小説も多作で、文学座の創設に関わるなど演劇界もリードしてきた。関根先生は「オールマイティな文学者」と評する。

創刊間もない『三田文學』で頭角を現した万太郎は慶大との関りが深く、全ての著作権収入を慶大に遺贈した。印税収入で得た資金は「久保田万太郎記念基金」として、記念講座の開設や図書館の近代文学資料の拡充、『三田文學』への資金援助など長くに渡り慶大の文化事業を支え続けた。

著作権の保護期間は50年で、今回の一連の企画は当基金による最終企画。万太郎の多彩な業績を振り返り、その現代的意義の再考を目指す。関根先生は「万太郎への感謝を込め、しっかりとした企画を進めていきたい」

 

『久保田万太郎と現代―ノスタルジーを超えて』

 

10月に平凡社から出された記念出版では、識者による論考と、万太郎作品に親しんできた文学者らによるエッセイを収録した。

万太郎は永井荷風や芥川龍之介、泉鏡花ら作家との交流を持ったが、その交流は文学や演劇の団体を組織することにもつながった。小平先生は「万太郎の文学界に持った影響力は、戦時中の文学統制に関わるような役割でもあった。そんな中で、万太郎が戦中に何を守ろうとしたのか、厳しい状況の中でどんな風にやりくりしながら文学や演劇を導こうとしたか。もしくは偶然的な作用として化学反応が起こったのか、といったことを明らかにしようと試みた」。

副題の「ノスタルジーを超えて」には、日本の近代と万太郎の関わりを再考する意図が色濃い。関根先生は「ノスタルジーの成立の背景には、なりふり構わぬ近代化と、その先に控える戦争がある。そういう時代に、無残に破壊されていく古い人情や浅草のような世界に対して、彼は限りない悲しさを抱いていたと思う。このような根底にある思いにアプローチしていくという意図を込めた」。

 

「芝居にしない」万太郎作品の魅力

 

万太郎の作品の特徴として行間が挙げられる。関根先生は「小説や戯曲で多用される『…』が、俳句にもつながる彼の重要な感性だと思う」と指摘。小平先生は、「万太郎は『芝居にしない』ということを言っていて、人情を描くといっても、型から外れた独自のものを書く。『ここで涙する』という風に決まったものではなく、多様な家族関係や戦争において、いわく言い得ない微細な思いがあることが浮かび上がる」と分析する。

 

今、朗読劇で万太郎をやる意義と向き合って

 

シンポジウムでは、俳人、文学研究者、演劇評論家など多彩な顔ぶれが登壇。多岐にわたる万太郎の活躍を掘り下げる。さらに、若者にも関心を持ってもらおうと、塾生による万太郎作品の朗読劇が行われる。

朗読公演には演劇研究会(慶大公認学生団体)の塾生5人が参加し、6月から準備を進めている。週1回Zoomで万太郎作品を読み、話し合う時間を積み重ねてきた。

演出を務める五十嵐さんは、「作品だけでなく、その周囲にある寄席や歌舞伎に目を向けたり、万太郎を漫画にしたらどうなるんだろうみたいな話をしてきた。学生が万太郎に触れて何を得るのかが会の趣旨として重要な気がしていて、その一つの形として上演したい」と意気込む。

今回のシンポジウムは「著作権が切れるお祝い」という側面を持つと指摘する五十嵐さん。「著作権が切れて忘れられてしまうきっかけともなりうる中で、魅力である変わるものと変わらないものってなんだろう、と。万太郎の描く変わらない浅草を通して見えてくるのではないか。それが、万太郎作品を上演することの、現代的な意義を浮かび上がらせるきっかけになるのではないかと思う」

小平先生は「(著作権が切れたからこそ)慶應の大先輩だから注目するのではなく、中身の面白さが注目されていけば」。関根先生は「若い人たちによって万太郎がもう1度解釈され、さらに次の人たちにも繋がって思いを伝えていけるのであれば、我々が当初考えていた以上の成果になるのではないか」と期待を寄せた。

野宮勇介

 

久保田万太郎シンポジウム、展示チラシ

 

◇シンポジウム「久保田万太郎と現代」

【日時】12月16日(土)14時~17時

【会場】慶大三田キャンパス北館ホール

【参加方法】対面開催、入場料無料、予約不要

 

◇展示「久保田万太郎―時代を惜しみ、時代に愛された文人」

【会期】11月28日(火)~12月23日(土)

【時間】平日9時~18時20分/土曜日9時~16時50分

【会場】慶大三田メディアセンター1階展示室

 

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