ラスト2分46秒。得点板に目を移す。71―71の同点。昨年、ラスト14秒で早大の井出にスリーポイントシュートを決められ逆転負けを喫した悪夢がよぎる――。
 しかし、ここで踏みとどまったのが4年生トリオだった。岩下(#7・4年・芝)のゴール下、酒井(#5・4年・福岡大濠)の速攻に、二ノ宮(#4・4年・京北)が3ポイントシュートで続く。ラストには「無心。ただ勝ちたかった」という岩下のダンクシュートも飛び出した。
 試合終了のブザーとともに思わず泣き崩れる4コート上の4年生。第58回早慶バスケットボール定期戦は、激闘の末82―77と慶大の勝利で幕を閉じた。

結束力で勝ち切る

 二ノ宮のファウルトラブルもあった。インサイドで簡単に攻略される場面も多々あった。スコア的にも決して満足のいく点数ではない。それでも、「4年生がカバーし合った結果の勝利」(酒井)。最終ピリオドの慶大の22得点のうち、#19蛯名(1年・洛南)の2得点を除く、実に20点が4年生3人による得点であった。
 佐々木ヘッドコーチによれば、「(今季の)新チームを作るときにチームで立てた目標は、インカレで優勝することと、(シーズン)前半の早慶戦に勝つこと」。それもそのはず。関東トーナメント優勝で最高のスタートを切った昨季、直後の早慶戦敗退からチームの歯車が狂い始め、目標としていたリーグ戦、インカレ優勝には手が届かなかった。
 チームが「早慶戦に勝つ」ことをあえて今年度の大きな目標に掲げた理由――それは、この試合の結果がいかにシーズン後半に影響してくるかを彼らはよく知っているからである。
 特に、これが最後の早慶戦となる4年生の想いは特別なものだった。「試合前は身震いするほど」(岩下)。「何が何でも勝ちたかった」(二ノ宮)。また、チームのムードメーカー的存在でもある酒井は、試合前夜にチームのメーリングリストを利用して、スタッフ陣に感謝の気持ちを伝え、選手たちには試合に向けての声かけをして結束力を強めたという。
 それだけに、勝利を伝える試合終了のブザーが鳴った途端、まるで緊張の糸が緩んだのようにコート上の4年生の目からは涙があふれ出た。「勝って泣いたことなんて今まで一度もなかったけど、慶應に来たからこそこういう経験ができた。慶應に来て本当によかった」(二ノ宮)
 大学バスケットボール界に訪れる次なる主要大会は、9月4日から10月31日にかけて開催される関東大学バスケットボールリーグ戦。慶大は昨年に引き続き関東1部リーグ。5月に行われた関東大学バスケットボール選手権(関東トーナメント)の覇者青学大、昨季インカレ覇者日大を含む8大学が総当たり戦で順位を決める過酷な大会だ。
「早慶戦を勝ちきったというのは自信になるし、チームの成長が今後顕著に表れてくるはずだと思います。今日はそのターニングポイントだと思うので、リーグ戦から弾みをつけてインカレに臨めれば」(岩下)
 昨年の雪辱を果たし、悪い流れを自らの手で断ち切った慶大。関東トーナメント準優勝、早慶戦勝利とシーズン前半を理想的な形で終えた彼らは、後半戦で結果を残すための、勝負の夏を迎える。

(2010年7月9日更新)

文 井熊里木
写真 金武幸宏
取材 金武幸宏、井熊里木、金イェスル、伊藤那美