今年も大学受験の季節が到来した。いよいよ入試を迎える受験生の中には不安に駆られる人も多いだろう。そこで、慶大法学部出身で現在は中学受験専門塾 伸学会の代表を務めている菊池洋匡氏に受験生が食べるべきものや参考にすべき習慣について話を聞いた。菊池氏は脳科学や心理学に基づく効率的な勉強法や栄養学的に良い食事を重視している。

まず受験生が取るべき食事について「いわゆる健康的な食事をとれば大丈夫です」と語った。具体的には牛肉・豚肉よりも鶏肉を食べる、魚や野菜を摂取するといったものである。ただし、人間の体は変化に弱いため食習慣を急激に変えてしまうとかえって調子を崩す恐れがあるので注意が必要とのことだ。

避けるべき食材としては飽和脂肪酸をたくさん含んだものが挙げられるという。牛肉などに含まれている飽和脂肪酸は、少しではあるが脳の働きを阻害する。そのため、脂肪は魚などに含まれる不飽和脂肪酸を摂取するのが良いらしい。

受験当日は糖分を摂取することが推奨されることが多いが、精製された糖質は吸収が早いために血糖値を急上昇させる作用がある。そこからインシュリンの働きで血糖値が下げられるが、体質によっては下がりすぎて低血糖状態に陥ることもあるという。低血糖状態になる場合には米など吸収の遅い糖質をとるのが良いという。過去問を解く際本番のように糖分を摂取してみて、自分に合ったものを見つけることが重要だ。

次に、受験生が取り入れるべき習慣について尋ねた。「受験生にとって大切なのは運動です。運動には脳の働きを活性化させる作用があります。運動する時間を惜しく感じる受験生もいるかと思いますが、一日中座って勉強するより散歩や自重トレーニングのような手軽な運動を取り入れた方が効率よく勉強できます」。

他にもマインドフルネスの実践が挙がった。これは椅子に姿勢よく座り呼吸に意識を集中させながら深呼吸することで緊張した状態から心拍数を落ち着かせる瞑想の一つだ。緊張した状態では脳は戦闘的な状態にあり脳の理性的な働きが低下するという。マインドフルネスには緊張をほぐし脳の理性的な働きを取り戻す効果がある。また、過去問演習の前にルーティーンとしてマインドフルネスを行うことで練習通りの実力を本番で発揮しやすくなるという。

試験前日から当日の過ごし方については「前日は緊張のせいで眠れなくなってしまう受験生もいるかもしれませんが、眠れなくても横になるだけで脳は回復しますので布団の上で横になるべきです。また、当日は朝食を試験が始まる2時間前に食べるべきです」と語った。食後から2時間ほどで消化が完了し脳に栄養が行きわたる状況を作れるのだという。

最後に受験生に向けたメッセージをもらった。「たしかに良い結果を目指すことは大切であるけれど結果だけにとらわれすぎないでほしいです。志望校に合格できたから良い人生が待っていると考える受験生は多くいます。しかし、実際に大切なことは勉強し続けることです」

大学入学時の学力が必ずしも将来の収入に良い影響を及ぼすことはないという研究結果があるという。大人になってからも勉強を習慣化している人は知識水準が高くなるため収入が高くなる。第一志望校に合格したことに満足して勉強しなくなる人の収入は高くはならない。

「現時点の成績や進学先よりも今まで勉強してきたということやそれを受験後も継続することに価値があります。結果がどう転ぼうと自分の人生にはあまり影響しないと開き直って試験に臨んでほしいです」と菊池氏は熱く語った。

(櫻井優悟)

【菊池洋匡さん】

中学受験専門塾 伸学会代表。慶應義塾大学法学部法律学科を卒業。教育心理学に基づき、効率の良い学習法やスケジューリングの指導、成長するマインドセットのあり方を育てるコーチングを行っている。著書に『「記憶」を科学的に分析してわかった 小学生の子の成績に最短で直結する勉強法』(実務教育出版)など。