10月16日は、世界の食糧問題を考える日として、国連により「世界食糧デー」として定められているのをご存じだろうか。近年、食品ロスが世界的に社会問題となっており、日本も例外ではない。そして、日本が豊かな国という見方がある一方で、貧困に苦しみ食に困っている人々が存在するのも事実である。これらの社会問題を解決するには何をすればよいのか。その問題の糸口を探るべく、食品ロスの問題に日々携わっているNPO法人日本もったいない食品センターとecoeat(エコイート)の代表理事である高津博司氏に話を聞いた。

 

食品ロスの実態

消費者庁の発表によると、食品ロス、つまり、まだ食べられるのに廃棄される食品の量は年間522万トン。国民一人当たりに換算すると、お茶碗一杯分(約123グラム)である。食品ロスは環境にも悪影響を及ぼすということは容易に想像できる。実に「もったいない」のである。ここで敢えて「そもそも食品ロスは完全なる『悪』なのだろうか」と高津氏は私たちに問いを投げかけた。
例えば、経済的側面で食品ロスを促進することは良い影響をもたらすのではないかという考え方がある。「いらないものはどんどん捨てて、新しいものをどんどん買うことにより、経済がより回り良いことだ」といった、大量生産大量消費を良しとする、食品ロス削減に相容れない意見もあるだろう。しかし、高津氏は真っ向からこのような意見に反論していた。食品ロスとは、「まだ価値のある食品を捨てるだけでなく、その上廃棄費用も掛かることである」と高津氏は説明した。まさに、お金(食品)を捨てるためにお金(税金、資源)を使っている状況であるという。さらに、食品ロス削減を家庭で実施することで家庭内でのお金が浮き、それを違うことに使った方がより豊かになるとの考えも示した。

 

「使命感」が突き動かしたもの

「当団体の目的は、食品ロスの削減、そして生活困窮者への食糧支援という大きな二つの社会問題を同時解決することです」。高津氏が食品ロスの活動に携わるようになったのは、食品ロスの現状がある一方で、生活困窮者の現状を目の当たりにし、この両者の問題を解決しなければならない「使命感」に駆られたからだった。「この豊かな日本でこんなに貧困があるのか。特に子供たちは、自分に非があり貧困になったわけではない。そんななか、僕はいろんなものを安く仕入れる力を持っている。解決すべき問題と、状況を変えられる手段をとれる人が出会ったのであればやるべきじゃないですか」

 

~ecoeatで救う~食品ロスと貧困

高津氏は食品ロスと貧困という2つの社会問題に立ち向かうべく、事業のロスと個人のロスに着眼した。事業のロスへのアプローチとして、廃棄される可能性の高いものを積極的に買い取る働きかけをしている。一方で、個人から食品の引き受けはせず、食品ロスに関する知識を広げる活動を行っている。
その啓発活動の一環に、ecoeatがある。ecoeatでは、賞味期限が残っているにも関わらず、廃棄予定の飲料や食品を買い取りまたは無償で引き取り、その中からおいしく食べられる食品のみを販売していており、全国で18店舗を展開している。
客は来店する際に、まだおいしく食べられるにも関わらず廃棄される可能性がある食品を目の当たりにすることで、食品ロスへの現状を体感させられる。そして、スタッフはすべての客とコミュニケーションをとることをこころがけ、客の賞味期限への正しい認識を伝えているという。

ecoeatの商品。まだ食べられるにも関わらず、廃棄される可能性が高かった。

 

「新しい意味での地産地消」を目指す

ecoeatは、啓発活動に加え、地域貢献と活動費の捻出を目的としている。高津氏は「商品を見ているとその安さが目に留まるが、ecoeatはディスカウントストアではない」と強調した。他店と競合するために安く売るのが目的なのではなく、おいしく食べられる限られた時間の中で購入してもらうために工夫した結果に過ぎないという。そして、質の良い食品を安く売ることは、その地域に住む人々の生活を支えるとい点で地域貢献を果たしている。

さらに、ecoeatの売り上げは食品ロス削減及び生活困窮者への寄贈にかかる費用を捻出しているという。

高津氏が思い浮かべる理想を、「新しい意味での食品ロスの地産地消」と表現した。余って困っている人と、食に困っている人が助け合うということだ。

 

1人ひとりが当事者であるという事実

最後に高津氏は、どんな「仕事に就いていようと一人ひとりが人の役に立っていて、社会貢献しているのだ」と語った。高津氏が行っているような、いわゆる慈善活動と称されるものだけが社会貢献をしているのではない。当たり前のことのようで、そのことに気づけていない人々も多いのではないか。「私たち一人ひとりがより良い社会にしていく」という事実を改めて再確認し、一人ひとりが問題と向き合っていくことが必要なのである。

 

(宮本紗耶佳