慶大名誉教授に聞く!文系大学院のすゝめ

文系学部で学ぶ学生にとって、大学院とはどのような場所なのだろうか。2020年度には、慶大理工学部から約75%が大学院へ進学した一方で、文系学部では進学率が高い文学部でも7%程度にとどまっている。ごく少数の学生が進む文系大学院について、元文学部教育学専攻教授・現名誉教授の山本正身先生に話を聞いた。

元慶大文学部教授・現名誉教授の山本正身先生

大学院は2年間の修士課程と3年間の博士課程に分かれる。文系大学院での学びは研究室に所属し、文献を読み込むことが中心となる。学部で行われる一方通行型の講義はほとんどない。ゼミのような形式で、それぞれが調べてきた内容について学術的に正しいか互いに確認する作業を繰り返して研究を進めていく。

入学するには、同大学からの内部進学の場合は卒論の提出と語学試験、外部からの入学では専攻の内容に関する試験が課されることが多い。いずれも面接試験が重要で、どのような研究に関心を持ち、対象にアプローチするための研究計画を立てているかが重視される。

進学に向けて学部生ができることとして山本先生は、「大学院では、自分の興味関心や不明点がどこにあるか見つけ出し、テーマを設定することが研究の基本になる。その手がかりをつかむために、学部時代は新書などの教養書にも多く触れ、研究の土台を作ってほしい」と語った。

大学院卒業後の進路は、修士課程と博士課程で大きく異なる。修士課程のみを修了した場合、企業への就職はもちろんだが、教員になるケースも多い。特に慶大の大学院では慶應義塾の一貫教育校に就職する卒業生もいるという。基本的には研究ではなく、学校を含む一般社会で活躍するケースがほとんどだ。修士課程から更に博士課程へ進むと、企業への就職を希望する学生は少数だ。卒業生の多くは研究者として、学術の世界に入っていくことになる。一口に大学院進学と言っても、修士課程か、さらに博士課程へと進むかが卒業後のキャリアを決める分岐点となりそうだ。

文系大学院を取り巻く日本の学界の問題点として、大学の専任教員の多くを男性が占めているように、女性の研究者は依然として少数派という点がある。人文系は比較的女性の研究者が多いものの、女性が研究の道へ進むことに対する偏見など、今なおジェンダーバイアスが残る。山本先生は、日本社会全体の問題としても、女性の社会進出がまだ極めて不十分である点を指摘する。「企業だけでなく学界も変わっていく必要がある。より多くの女子学生に大学院に進学し、研究の世界で活躍してほしい」

また、山本先生は教育学者として、そして教員として文系大学院を見守り続けた立場から、研究の醍醐味を「自分のオリジナリティを発揮できること」と表現する。文系の慶大生の多くは学部卒業後、企業に就職する道を選ぶ。このような選択の安定性を認める一方で、組織の中では難しい自己実現が、個人作業が中心となる研究では可能だと先生は考える。大学院へ進学し学術の道を歩む意義について、「研究の場では、自身の興味関心を存分に発揮することができ、その知見こそが評価される。自分の生きてきた道を研究という形で残せることには、生涯年収には換えられない喜びや充足感がある」と締めくくった。

(山口立理)