9月26日、矢上祭が開催された。新型コロナウイルスが猛威を振るい収束の見通しが立たない中、昨年同様完全オンラインでの開催となった。本年度のテーマは、Go To トラベルと掛け合わせて題した「Go To 矢上」。このテーマ通り対面での開催は叶わなかったが、斬新かつ多彩な企画が数多く展開された。矢上祭にかける理工学部生たちの熱い思いを一つにまとめ率いた、矢上祭実行委員会副委員長の梶谷風翔さんに取材した。

「オンライン開催が決定して、当初は悲しいという思いもありましたが、第2回オンライン矢上祭として昨年以上の盛り上がりを目指して活動してきました」と語る梶谷さん。目まぐるしく変化していく情勢下だからこそ、どんな状況でも楽しめる矢上祭を作るべく、様々な可能性を視野に入れての活動が始まった。一昨年までのような完全オンキャンパスでの開催は難しいという判断の下、限られた委員と来場者による対面開催、準備のみの対面活動、完全オンラインという3つの形態を早い段階から提示し、委員会全体で共有したことで、状況に合わせて素早く切り替える柔軟な対応が可能になった。しかし、開催に至る道のりは平坦ではなかった。特に委員による対面活動の在り方を考えることに苦心したという。コロナウイルスの感染者数が急速に増加するなか、感染対策を徹底しながら対面活動を安全に再開することは前例のない挑戦であった。さらに、企画による対面活動の有無の差に対する委員の不満を解消することにも努めなくてはならなかった。対面活動の制限により委員の帰属意識が希薄化してしまうことも問題視されており、全委員の士気を高めることを1つの目標に掲げていた梶谷さんにとってはこれらは大きな課題であった。

梶谷さん(最下段右から2番目)と矢上祭実行委員会役員の皆さん(写真=提供)

このように数々の壁にぶつかりながらも、昨年度より大幅に完成度を上げた矢上祭の実現に成功した。企画数は昨年の2倍になり、理系色の強いものからミス・ミスター慶應理工コンテスト、アカペラ大学対抗戦など幅広いジャンルに富み、動画だけでなく学科適性診断といったホームページ上での企画などコンテンツの充実化が図られた。ひようら(日吉商店街の通称)の知られざる魅力を発見できる、ひようらグルメ紹介企画も配信されている。今年は1秒単位でタイムテーブルを組み、CMや独自作成の映像を流すことで見ている人を一瞬たりとも飽きさせない工夫が施されているそうだ。また、新たな配信形態として、昨年のYouTubeのプレミア配信とオンデマンド配信に加えてライブ配信も行われた。プレミア配信は昨年より数時間長くなり、吉本興業の芸人5組によるスペシャルお笑いLIVEなどが配信された。ライブ配信では、謎解きクリエイターとして活躍する松丸亮吾さんのトークショーが行われた。この2つは特に目玉企画として力を入れたものであり、交渉面や財政面などで苦戦したというが、「委員1人ひとりの協力による渉外活動で企画全体の8割は賄えるほどの資金を集めることができました。さらに撮影などの際にも、失敗しないように緻密な準備を整えてもらい予算削減に努めたので、赤字は回避出来ています」と微笑みながら裏話を聞かせてくれた。昨年度から革新的な進歩を遂げた矢上祭は、委員一人ひとりの情熱や努力の結晶であり、矢上祭実行委員会の強い結束力があったからこそ実現したのである。

最後に梶谷さんは矢上祭の魅力について熱く語ってくれた。1つ目に理工学部のオープンキャンパスの側面を担うこと。2つ目に地域密着型の学園祭として学生とひようらを始めとする地域の方々との懸け橋となること。3つ目に委員自身が企画から準備、運営全てを一から行うこと。「対面の学園祭を基準としてオンラインでこれに近づけようとするあまり、矢上祭の魅力を十分に発揮できていないというもどかしさを感じました。来年度以降は対面の学園祭を知らない世代が率いていくことになるので、固定観念に捉われずに今までにない斬新なアイデアを出して新たな矢上祭を作り出してくれるのではないかと期待しています」

コロナウイルスの状況に左右され、オンラインで出来ることの限界に悩まされながらも、創意工夫に富んだオンライン矢上祭の実現を導いた梶谷さんたちの努力や思いは、今後の新しい矢上祭の糧となるだろう。

(三毛優依)